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次の島までという猶予があるのはいいものの、何をすればいいのか私はまるで考え付かなかった。エースにしてみれば「宴会芸でもやればいいんじゃねェのか?」ということらしいが、そんなことで乗船を許可してもらえるとも思えない。一体何をすればいいのかと途方に暮れていた時、遠くから私を呼ぶ声がした。

「おい、新入りこっち手伝え!」
「はい!」

呼ばれたままに私は行き、船の塗装の修正を手伝う。後から知ったことだが、この船はナース以外女人禁制であるらしい。乗組員では私が唯一の女となるが、海賊というからには配慮も何もあったものではない。こうして毎日雑用を手伝ってはいるものの、所詮それは新入りがやる誰にでもできるような仕事で、私が特段誇れるものでもないのだった。

「何やってんだ、遅ェぞ!」
「すみません!」

厳しい先輩の怒号を受けながら私は身を粉にして働き、解放されたのはとっく日が落ちた頃だった。食堂で夕食を取り、自室への道を辿っていた時、私は唐突に腕を引かれた。この感覚には覚えがある。腕の先を見ると、エースが人差し指を口に当てて私を甲板の端へと連れ出した。

「どうだ? モビーでの生活は」

私は思わず疲れた、と言いそうになるのを踏みとどまった。エースは私の恩人だし、私は今試されている最中だ。弱音など吐いていられない。

「まずまず」

私が言うと、私の心の中など見抜いたようにエースが笑った。船のどこかからは、騒いでいる声が聞こえる。私が贔屓されていると感じさせないために隠れて、それでも様子を見に来てくれるところがエースらしいなと思った。

「能力とかあれば楽なんだけどなァ」
「能力?」

聞きなれない言葉を私は反復する。するとエースは「話してなかったか?」と言って自身の指先に火を灯してみせた。

「こうやって炎になれたり、地震を起こせたりする力のことだ。その代わり海には嫌われちまうけどな」

私は目を丸くしてエースを見た。返事がないことを不審に思ったのか、エースが私の方を見る。「何だよ」その言葉に食ってかかるように、私は身を乗り出した。

「エースって炎が出せるの……?」
「ああ。炎を出す以外にも色々できるぜ。ほら」

風が吹くと、エースの体は陽炎を残して揺られた。すぐにまた戻ったが、日本生まれ日本育ちの私にとってこれほど衝撃的なことはない。

「今度からエースとの距離を考えさせてもらうね……」
「名前を燃やしたりしねェよ! おいおれから離れようとするな!」

エースが隊長で何億もの賞金首だということがようやく理解できた気がする。これほどの力を身に着けないとこの船ではやっていけないのだと思ったら何だか途方もない気がしてきた。次の島に着くまではあと四日。それまでに、私も何か見つけられるのだろうか。