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あれから二日が過ぎた。残り二日となったものの、いまだ私がこの船に残る手掛かりのようなものは掴めそうにない。シーツの洗濯を終えて甲板に出ると、待っていたのかエースがこちらを見て笑った。

「毎日ご苦労さん」
「乗せてもらってる身分だからね……」

寝そべりだしたエースの横で、私は順番に洗濯物を干していく。今日は快晴とだけあり、エースも気持ちよさそうだ。

「まあオヤジがダメって言ってもよ、おれが何とか説得してやるから、安心しろよ」
「ありがと」

ぽつぽつと言葉を交わしていた私達だったが、やがてエースの声は聞こえなくなった。代わりに聞こえてきたのは小さな寝息だった。初めて出会った日の晩のことといい、エースはすぐに寝られる体質なのだろう。寝つきの悪い私としては少し羨ましかったりする。私は洗濯物を全て干し終えると、寝ているエースの顔を覗き込んだ。

こうしてみると本当に子供みたいだ。いつもの男らしさはどこへ、今私はエースに可愛いという感情を抱いている。私はそっとエースの顔に手を伸ばした。特に理由はない。あんまりにも気持ちよさそうに寝ているから、ただ触れてみたくなっただけだ。そう自分の中で言い訳はしているのに、やけに緊張してしまうのはエースが半裸だからだろうか。エースが私に触れることはあったものの、いつも服の上から掴むだけだった。私の方から、直接肌と肌で触れ合うのは今回が初めてとなる。私は心臓の鼓動を感じながらエースに手を伸ばし、触れようとした。

柔らかいエースの肌の感触を感じた瞬間、エースが目を見開いた。その瞳は普段仲間に接している時のような穏やかなものではなく、敵と相対した時のような鋭い瞳だ。思わず私は手を離して身を引いた。エースが素早く身を起こして私を見据えたのはほぼ同時だった。

「お前今何した」
「興味本位でエースに触れてみただけで……あの、本当にごめんなさい」

まさかここまで怒られるとは思わなかったのだ。考えてみればエースは海賊だし、昼寝中とはいえ警戒心が高くて当たり前かもしれない。

「本当だろうな?」

そう言うエースに私は必死で頷く。するとエースの視線はいくらか柔らかくなったが、腑に落ちないという表情をしていた。

「今、海楼石を当てられたような感覚がしたんだが……海水でも跳ねたかな」

海楼石というのは能力者の力を封じ、弱体化させるものだとエースに教わった。だがそんなもの今はないし、勿論海水が跳ねてもいない。

「お前、もう一度おれに触れてみろ」

エースは私の顔を見て言う。それが今の海楼石の感覚を確かめるためだということは分かっているが、私はどうも緊張してしまう。そんなことしている場合ではないと分かっているのに。

失礼します、と心の中で唱えてから私はエースの肩に触れた。その感覚に何らかの感情を抱くより早く、起き上がっていたエースが再び甲板に倒れ込んだ。

「エース!?」

私は慌てて助け起こそうとするが、それもまた逆効果のようだ。どうもできずに私が狼狽えていると、エースがむくりと起き上がった。

「今分かった。お前は海楼石の力を持ってる」

そう真剣に語るエースに、私は言葉を失ったのだった。