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私が乗船を認められてからというものの、船員達の態度は掌を返すように変わった。相変わらず雑用に追われているが、仲間と認めてもらえただけで心の負担はかなり軽い。

「なあなあ名前、アレやってくれよ!」

そう私に強請るのは四番隊隊長のサッチさんだ。私は言われるままに素手でエースに触れた。するとエースは力を失い、その場に倒れ込む。その様子を見てサッチさんや二番隊の隊員は手を叩いて笑った。

「やっぱ名前の能力って最高!」
「お前ら〜!」

エースは立ち上がり、帽子を被り直す。サッチさんに二、三言告げた後私の方に来て「お前も言われるままやらなくていいんだからな!?」と言った。

「あ、うん」

正直私も楽しんでいると言ったら怒られるだろうか。食べかけだったパンを齧っていると、向かいで一部始終を見ていたティーチさんが話しかけた。

「でも自分が海楼石代わりになるだけじゃねェだろ!? 他には何ができんだ、ウミウミの実」

何ができると言われても、意図して能力を使ったことがないので難しい。考え込む私の隣でエースが代わりに応えた。

「自分自身が海だから、海で泳いだり海楼石の手錠を掛けられたりしても平気だろうな。あとジンベエみたいに海水で相手を攻撃できたり、他の物を海楼石にできたりしたら最強なんだが」
「ゼハハ、すげェなウミウミの実!」

二人の会話を私は他人事のように聞いていた。エースや他の船員達も当たり前のように能力を使っているが、それに至るまでには練習を重ね努力したのだろう。私は今エースに目指すべき所を教えてもらったのだからそれに向かって努力しなければならない。

「オヤジさん達の役に立てるように頑張る!」
「おう! まずは海楼石の効果をオンオフできるようになってくれ」

どういうことかと思ったが、確かにそれが一番基本かもしれない。炎のエースも常に炎でいるわけではなく、用があって背中を叩いた時などはきちんと実体のある体をしていた。頭の中にメモする私の向かいでティーチさんが笑った。

「そうしなきゃエース隊長は名前に触れられないもんな!」
「うるせェな!」

エースは恥ずかしそうな表情をしている。しかし、能力者の誰にも触れられないというのは何かあった時に困るだろう。まずはエースに普通の人間として触れられるようになるのが第一目標だ。

「まァお前もあんま気張りすぎずに頑張れよ」

そう言ったエースの顔を私はじっと見入った。エースは「何だよ、そんなに見て……」とどこか居心地が悪そうにしている。だが、今何故かエースの顔に引っかかりを感じたのだ。私はエースの顔をどこかで見たことあるような気がする。恐らくは、海で出会う前に。

とは言ってもそれでは私が元の世界にいた時に出会っていたことになるし、きっと勘違いか何かなのだろうと思い直した。何しろ私は異世界に来た人間なのだ。デジャヴの一つや二つあってもおかしくないだろう。

「何でもない。掃除行ってくる!」

私がそう言って立ち上がると、エースも「お、おう」と言いながらパンを口に詰め込んだのだった。