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あの不思議な空気漂う夜が明け、麦わらの一味は船室に集まって作戦会議を開いた。四皇のカイドウと戦うのはまだだが、これから相手にするのは七武海のドフラミンゴだ。作戦を練り過ぎるということはない。今回は楽観屋のルフィだけではなくトラ男君がいるので安心だ。

「まずシーザー引き渡し組と工場破壊組と船番組に分けようと思う。シーザー引き渡しにはおれが行く。工場を壊すのには麦わら屋に頼む。後のメンバーは自由に決めていい」
「はいっ、はい! あたし船番!」
「工場破壊ってことはドレスローザに上陸できんな!」
「おれは工場破壊に行く」

本来なら私も真っ先に安全地帯の船番に立候補するところだが、パンクハザードで何の役にも立たなかったために憚られる。ビビり同盟仲間であるナミやウソップはドフラミンゴの手下を捕らえるのに活躍した。私だけ今回も甘い蜜を吸うというのは、少し他のメンバーに申し訳ない気がした。

「じゃあ私は引き渡し組に行こうかしら」
「破壊なら元解体屋のおれに任せろ!」

話がまとまりかけてきた時、私はそろそろと手を挙げた。

「じゃあ、私は引き渡し組で……」

みんながあまり行きたがらず、人の足りていない引き渡し組。私が自ら立候補すると、ナミが驚いた表情で私を見た。しかしナミが何か言うより早く、トラ男君が言葉を発した。

「ダメだ」
「ダメだって……後は自由に決めていいって言ったじゃん」

予想外の反撃にどもりながらも文句を言うと、トラ男君は「とにかくダメだ」と繰り返した。

「名前は船番にしろ」
「あら、トラ男君自ら決めるなんてご熱心ね」

私が何も言えないでいると、ロビンが揶揄うように言った。否定すればいいのに、トラ男君は何も言わず黙っている。この間みんなの前で質問攻めに遭ったことといい、一味のみんなが私とトラ男君をそういう目で見ているのは何となく感じていた。それは違うのだと、たまたま私がトラ男君の知っている悪魔の実を食べただけなのだと言いたいが、トラ男君にとって大事な話のような雰囲気だったために勝手に言いふらすことは憚られる。結果私はみんなの温かい目を受けながら黙っているしかないのだ。

「何で私は船番なのよ」
「おれはお前を死なせたくねェ。それだけだ」

その言葉に「シーザー引き渡し組は死ぬのかよ!」とウソップが驚いていたが私はトラ男君だけを見た。今、結構なことを言われた気がする。

「頼むから、残ってくれ」

私の知るトラ男君は冷静で、残酷で、屈強な男だ。それがここまで頼むというのなら、従ってやらないこともない。

「分かったよ」

すると一味が再び生暖かい目で私達を見ていることに気付いた。

「とにかく違うから!」
「何が違ェんだ?」

乱雑に叫ぶと、事を何も分かっていないだろうルフィが釣れた。幼馴染としてこういうことに一番鈍いのは知っている。というか、私とトラ男君の仲は「そういうこと」ではないのだけど。頭の中が滅茶苦茶になった私は、心の声をかき消すように叫んだ。

「じゃあ引き渡し組はトラ男君とシーザーとロビンとウソップ! 工場破壊組はルフィとゾロとフランキーと錦えもんとサンジ! 船番組はナミとチョッパーとブルックと私! それでいい!?」
「いいぞー!」
「ちょ何でおれが引き渡し組に入ってんだ!?」

適当に決めた振り分けだったが、場は上手く収まったようだ。未だ感じる温かい視線を煩わしく思いながら、私はドレスローザへ向かう覚悟を決めた。

とは言っても、船番なのでドレスローザへ上陸することはない。相手が相手なので直接船へ攻撃されることも考えられるが、基本はお留守番をしていればいいだけである。

「じゃあ生きて帰ってきてね! みんな」

船を降りようとしている引き渡し組と工場破壊組に告げると、ルフィが「おうっ!」と元気よく答えた。

「お前もな……」
「いや私は船番してるだけなんだけど」

ドフラミンゴと対峙するトラ男君は分かるが、何故私に命の危機があるのだろうか。トラ男君があまりにも真剣な顔をするから茶化すこともできずに私は気圧されてしまった。まさかこれが最後の別れというわけでもあるまい。本当にこれが最後の別れだとしても、私とトラ男君の仲なんてほんの数日航海を共にしただけではないか。何故か自分に言い訳をしながら私はみんなを見送る。島を見てみれば、賑やかな雰囲気がこちらまで伝わってきた。今回お留守番組になってよかったと、私は後から思うことになるのだろうか。もう小さくなっているトラ男君の背中を見ながら思った。