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いくら船番とはいえ流石は四皇と七武海を落とす作戦である。気付けばサニー号に敵の侵入を許し、相手の能力にかかっていた。何でも芸術に変えてしまうアトアトの実の能力者らしいが、戦闘向きとは思えない能力で麦わらの一味をここまで追い詰めてしまうのだから凄いものだ。なんんて悠長なことを思っている暇もなく、サニー号は敵の手によって芸術に変えられてしまう。私の能力はこんな時に何もできない。いつものようにまた自己嫌悪に陥っていた時、見張り番をしていた夜のことを思い出した。

――シャボンディでお前が能力を使ったところを見た時、もしかしたらと思った……おれは、その実の前の保有者を知ってる。

私にとっては碌に戦闘の手助けにもならない、ハズレの悪魔の実でも、トラ男君にとっては大事なものかもしれないのだ。そう思ったら、いつものように自分を卑下するのはやめにした。大事なのは、今置かれた状況で自分が何をできるかだ。

見聞色の覇気を張り巡らせると、敵が今考えていること、それから味方が今考えていることを知れた。ブルックの計画を知った私は、ブルックが敵に一太刀加えるのを待つ。そして体が解放されると、敵の仲間に知れ渡ることがないようサニー号を丸ごと凪にしてから武装色の覇気で攻撃をした。ナミの落とした雷がとどめとなり、敵は完全に背を地につける。観念するかと思いきや、敵はとんでもないことを言った。

「あなた達何も知らないざますね……! 若様は七武海をやめてなどいないざます!」
「どういうことよそれ!」

見聞色の覇気を使ってみるが、この敵は嘘を言っているのではない。つまり私達ははめられたのだ。私は思わずグリーンビットの方を見た。グリーンビットで今、何が起こっているのだろうか。

気がかりなのは、切羽詰まった様子で連絡を寄越したトラ男君のことだった。息は切れ、周囲からは轟音がしていた。間違いなく戦闘をしていると思っていいだろう。さらには「シーザーを預ける」との言葉。当初の計画からは考えられない事態である。まず計画は失敗したと思っていい。思い返すのは、「お前もな……」と言ったトラ男君の神妙な顔だった。私達はトラ男君に言われた通り船を進める。あれが私とトラ男君が交わす最後の言葉にならないと信じて。

「近付いたはいいけど……トラ男君船で行くのは不可能だって言ってなかった!?」

作戦会議の際に自分で船で行くのは不可能だと言ったのに、それを無視して船を寄せろとはどういうことなのだろう。やはりこっちがトラ男君の本性なのかもしれないと思いながら闘魚に攻撃を仕掛ける。そんな時チョッパーが声を上げた。

「ドフラミンゴが飛んでくる〜!」
「何この悪夢私達死んじゃうの!?」
「トラ男くーん!!」

私達は抱き合いながら思い思いに叫ぶ。今までは危機に陥った時「海賊になんてなるんじゃなかった」というようなことを言っていたのに、咄嗟に出てくるのがトラ男君の名前とは私も変わったものだ。まあドフラミンゴが私達を狙っているのは少なからずトラ男君のせいでもあるのだけれど、今の私は助けを求めてトラ男君を呼んだ気がする。パンクハザードで一回ヴェルゴから守ってくれただけで、トラ男君がまた私を守ってくれる保障なんてないというのに。トラ男君と私は悪魔の実で多少接点があるだけの、ただの同盟のクルーだというのに。近付くドフラミンゴに私が目を閉じた時、空中で激しく何かがぶつかる音がした。

「サンジ〜!」

ナミ達の声に目を開けると、ドフラミンゴと対峙するサンジの姿が見えた。この状況での心強い助っ人にナミやチョッパーやブルックは涙を流し喜んでいる。私も勿論嬉しいものの、心の中に蔓延る不安をどこか拭いきれなかった。ドフラミンゴがサニー号にやってきたのは間違いなくトラ男君の行動によるものだ。では、トラ男君は今何をしているのだろうか。

ドフラミンゴと対等に渡り合っていたサンジだったが、空中にて身動きを奪われた。このままやられてしまうのかと思った時、トラ男君が現れた。

「トラ男君!」

思わず駆け寄った私を一瞥すると、トラ男君はシーザーを指差して告げた。

「お前らはコイツを連れて『ゾウ』を目指せ!」
「いやよ! 船長なしで出航できるわけないでしょ!?」

もう何が起こっているのかは分からないが、作戦が失敗したのだということだけは分かる。軍艦やらドフラミンゴやら隕石やらがサニー号に降ってきて命がいくつあっても足りそうにない。それを一人で捌いてくれているトラ男君には本当に頭が上がらない。だが、この胸騒ぎは何なのだろう。