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その日の夜、私は見張り台の上で海を見渡した。今日の見張り当番は私だ。といっても最悪の世代が二人もいる麦わらの一味を襲ってくる海賊はまずいないし、いたとしても無音にする私の能力では敵わないのだけど。私は近辺の海に何も不審物がないのを確認すると、船の甲板まで降りた。そこには船室を使っていいと言われたのに律儀にも手すりにもたれて芝生の上で眠っているトラ男君がいる。目は閉じていても、私が近付いた気配できっと目を覚ましているのだろう。私はトラ男君の隣に腰掛けると、そっと語りかけた。

「どうせ甲板で浅い睡眠してるなら付き合ってよ。私見張りだからさ。トラ男君のチート能力なら安心だし」

そう言うと、トラ男君の瞼がゆっくりと開かれるのが分かる。それを確認すると、私はトラ男君の顔を覗き込みながら言った。

「あの約束覚えてる?」
「……あァ」

――無事この島を出られたら、さっきから私のことずっと見てる理由教えてよね。
ルフィとトラ男君が同盟を組んだ際に、私がトラ男君に言った言葉である。その時から既に、というか出会った時から私はトラ男君にガンをつけられていた。その後も妙に気にかけられてばかりである。トラ男君の怒りを買った覚えはないのだが、トラ男君が私のことを憎んでいるのであればパンクハザードで私を庇うような真似はしないだろう。人のいないサニー号を見ながらトラ男君の言葉を待っていると、トラ男君はゆっくりと語り出した。

「シャボンディでお前が能力を使ったところを見た時、もしかしたらと思った……おれは、その実の前の保有者を知ってる」

トラ男君とシャボンディで一方的に面識があったことには驚きだが、今触れるべきはそこではないだろう。悪魔の実は保有者が死んだらまた生えてくる。つまり、トラ男君の知っているその保有者は既に亡くなっているということだ。私の前の保有者は私のようにこの実の力を持て余したりはしていなかっただろう。戦闘はどれくらい強かったのだろうか。トラ男君とどんな関係だったのか。聞きたいことは山ほどあるけれど、今はまだ聞くべきではない。

「そっか」

私は小さく言うと、しばらくトラ男君の隣で座っていた。見張りに戻るべきだということは分かっていたけれどもう少しこうしていたかった。トラ男君も何も言わずにただ船のどこかを見ていた。私が立ち上がったのを皮切りに、トラ男君は再び瞼を閉じた。