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私達はすぐに言葉通り「頑張る」はめになった。何しろビッグマム海賊団に追われているのだ。砲弾が飛び交う中、私は見分色の覇気で船を操作するのでいっぱいだった。サンジだけではなく、この場にナミもいたのが救いだった。ナミの天候棒でビッグマム海賊団の動きを止めると、私達は急いでその場を離れた。ドレスローザから遠ざかることに対し不安がないわけではないが、私は生きてまた会うために頑張ると決めた。とりあえず今は目の前の「ゾウ」に登るのがその実現方法だ。

「よし、上ろう」
「名前ちゃんいつになくやる気だな」

揶揄うつもりはないのだろうが、サンジが笑って私を見下ろす。普段ビビってばかりの私を見ては今の私は異常に見えるかもしれない。しかし今の私にできることは無事ゾウに上陸して待つことのみなのだ。

「でもこんなのどうやって上るの?」

辿り着いたのは島ではなく動くゾウだし、町のようなものは遥か上にあってとても上陸できる様相ではない。サンジやブルック一人なら上へ行くこともできたかもしれないが、私達はサニー号で上る必要がある。このメンバーでは無理だろうかと思った瞬間、とある男と目が合った。

「シーザーの能力ってガスだから……こう、バルーンみたいにできるんじゃない!?」
「名案じゃない!」

咄嗟の発案を喜ぶ麦わらの一味のメンバーに対し、シーザーは心外だとでも言いたげな顔をした。

「誰がやるか! 七武海の女だからって調子に乗りやがって……」

この発言だけは見過ごせまい。私は動揺を隠し切れないままシーザーに叫んだ。

「七武海の女じゃないし! アンタの心臓私達が持ってんの忘れたの!?」
「それもローの能力だろうがっ!」

ぐうの音も出ない正論に私は思わずシーザーの心臓を握りつぶしたくなる。だがそれでは残忍な海賊達の仲間入りをしてしまうのでなんとか堪えた。人の心臓を握りつぶす感触など知りたくない。人の心臓を取り出すことに関してトラ男君は何の抵抗もないのだろうか。医者だからないのか。とにかく私達はシーザーの力を利用してゾウの背に上ることになり、無事その肌に着地した。

「何……これ……」

本来門であっただろうものはひび割れ、傾いていた。明らかに異常だ。元々荒れた国なのかもしれないが、そのような島をカイドウに追われている私達の合流拠点にするとは考えづらいだろう。見聞色の気配を張り巡らすと、こちらへ近付いてくる者の気配がした。しかもその人物は、明確な殺意を持っている。

「……来る!」

私が言ったのと何か動くものが飛び出してきたのは同時だった。どうやら鰐か何かに乗った人間が動物を追い回しているようで、心の声を読むに殺意を持っていたのが人間で逃げ回っていたのが動物だろう。

「この子、逃げてるみたい!」

動物を避難させ、鰐に向けて攻撃するとこの場は一時凌げたようだった。ゾウにはミンク族が住んでいると聞いているし、この動物が原住民だろうか。とりあえずこの島を案内してもらう前に、この島に何が起こっているかを聞かなければならない。私が振り向いた時、ちょうど目が合ったその動物は逃げ出してしまった。

「あっ! ちょっと待って……」

仮にも海賊をやっている身だが、可愛らしい女の子にダッシュで逃げられるというのはなかなかくるものがある。私はブルックやフランキーのように怖い見た目をしていないと思うが――人間でもトラ男君やゾロのような目つきの男は逃げ出したくなるかもしれないが――一体どうしたというのだろう。心の声も怯えてばかりだし、普通の様子ではなかった。謎を解くためにゾウの中心部へ入るにつれ、特徴的な匂いが鼻をつく。

「ガスが充満してる……」

その場に転がっているのは生きているのかも分からない動物の数々だ。この場で何があったのだろうか。私達はゾウで起きたらしいこの争いの、どちらに味方すればよいのだろうか。辺りを見回していた時、意識があったらしいヒョウのような男がしゃがれた声を出した。

「手を貸してくれ……! イヌアラシ公爵とネコマムシの旦那に今すぐ手当てを……!」

その男の心の声を読んでみるが、私達を罠にはめようとしている様子はない。仮に罠にかけようとしていても、その体ではできないだろう。

「この人の言ってる通りみたい……手当てをしよう……!」

最初は寄った国それぞれを助けていくなんてルフィはお人好しすぎると思っていたが、すっかりその癖が私にも移ってしまったらしい。見聞色の覇気を身に着けたのは騙されやすいルフィや私自身を守るためにもいい方法だっただろう。チョッパーに指示を仰ごうと振り返った時、シーザーがほくそ笑んでいることに気付いた。