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恐らくは自分の話をされてないか気になるのだろう。露出の多い服だけに裾を引っ張るのはやめてほしいのだが、仕方なく私は見聞色の覇気を広げる。すると感じたのは、あからさまな攻撃的な意思と覇気を使わなくても聞こえる銃声だった。

「どうなってんだ!?」

三億の賞金首が私の背に隠れて私の言葉を待っていると思うと不思議な気分だが、それどころではない。敵は武器、それに隠し持っていた部下達を出して降伏させにきたのだ。

「大変……!」
「何だ!」
「敵に囲まれてナミとチョッパーが捕まった! あとシーザーが出てこなければ海楼石の銃を撃つって」
「そっちを先に言え!」

急に飛び出したシーザーに引っ張られる形で私も敵の眼前へと着地した。正確にはシーザーの上にのしかかった形なのだが、何しろシーザーはロギアの能力者なので実体がない。直接地面の上に放り投げられ顔面を強打した私は武装色の覇気でも使っておけばよかったと思った。敵に知られることなく最後の戦力として控えていられるのが理想だったが、敵も見聞色の覇気を使わないとは限らない。シーザーがいることに気付いたのだから、きっと私の存在にも気付いていることだろう。どちらにしろ抵抗の余地はないので素直に従うと、私達はベッジの体内へと入った。

シーザーの隣に並べられているのは心外だが、私達は錠をされている以外特に手荒なことはされずに座らされている。サンジに至っては何の拘束もされていない。私にできるのは、見聞色の覇気で心の声を聞くことのみだった。だが、いくら聞こうが無意味だ。サンジの心の声も、ベッジの心の声も声に出している言葉とまるで変わらない。脅しではなくサンジに結婚を要求するベッジと、それに動揺するサンジ。「おれは仲間に隠し事をしてたつもりはない」という最後の言葉が本心だと分かっているからこそ何も言えなかった。

私は一体ルフィに何と言えばいいのだろうか。その思いを抱えたまま時間は過ぎ、遂に半ば恐れていたことが起きた。ルフィ達が到着したのだ。同じ一味で、無事にドフラミンゴを倒してきたという証であるのに心から喜べないのが悔しい。飛び出して行ったナミとチョッパーに続いて私もそろそろとみんなの前へ出た。真っ先にルフィからの視線を感じるが、今は目を合わせる勇気がない。次いでトラ男君達からの視線も感じて、今の私はミンク族の露出の多い服を着ているのだと恥ずかしくなった。だが、いたたまれないのはその理由だけではない。ナミがルフィに抱きついた時、私は思わず目を閉じた。

「サンジ君が……!」

詳しい話は中で話すとなれば、麦わらの一味を英雄扱いするミンク族によってまるで宴のようになってしまった。ビッグマムに追われた所から始まるサンジの話をするのはナミに任せて、私は隅で一人ジュースを飲む。あんなことがあって酒を飲む気にはなれなかったし、今は口を開かなくていい口実が欲しかった。

イヌアラシ、ネコマムシの所へと場所を変え一味の議論は続く。ルフィはサンジがどうしたいのか聞きたいようだった。だが、この様子ではサンジが一味を抜けると言っても連れ戻しにかかるだろう。ルフィにとって重要なのはビッグマムやヴィンスモークではなく、サンジの気持ちだ。ここで手紙を見せたり私が覇気で読んだことを言ったりしてもルフィは納得しない。サンジの所へ行ったって、本当は抜けたくないのに一味のために「抜ける」とでも言おうものなら引きずってでも連れ帰ってくるのだろう。両者共簡単に想像できてしまうのだから恐ろしい。それでも一番嫌なのは、麦わらの一味結成当初からの仲間であるサンジが抜ける危機だというのにビッグマムやカイドウ、自らに降りかかる災いのことしか考えられない自分のことだった。

ゾロのように一貫として主張するならまだいいのだろう。だが私はサンジへの情を捨てきれないまま、自分可愛さにビッグマムの所へ乗り込む選択肢を捨てようとしている。悩みが尽きない中、麦わらの一味の元に新たなる客がやってきた。見間違えようもなくトラ男君、それからハートの海賊団だ。これだけ人数が揃えば宴を開いてしまうのが海賊の性というものらしく、カイドウの首を獲るという作戦が頓挫しかけているのにも関わらずルフィ達ははしゃいだ。今サンジのことで大変なことになっているのによく騒げるものだと思うが、私も肩の荷が一つ降りたのは確かだった。ルフィやウソップ達宴の中心からは外れ、私は輪から外れて一人酒を飲んでいるトラ男君の隣に座った。