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「なんだか久しぶりだね。元気だった?」
「腕が千切れたりしたが無事だ」
「それ全然無事じゃないよね!?」

トラ男君に振り回されるこの感じも懐かしい。ドフラミンゴとの戦いも壮絶なものだったのだろうが、また生きて会えたのでよしとしよう。当時はトラ男君があのまま死んでしまうのではないかと心配していたのが懐かしい。今はサンジのことで、同じように頭を悩ませている。

「……また前みてェに能力で馬鹿騒ぎしねェのか」

トラ男君に言われて数秒経ってから、パンクハザードでの宴の時ナギナギの実の力を使って宴会芸をしていたのを見られていたのだと気付く。トラ男君との宴はこれで二回目だが、早くも私が宴で馬鹿騒ぎするタイプだと見抜かれてしまったのだろうか。

「えーっと……今日はしないかな」

正確にはそういう気分になれないだけなのだが、私は誤魔化すように肉を食べた。

「そうか……おれの知ってるその実の前の保有者は、宴会芸によく使ってた」

私とトラ男君との間に沈黙が下りる。私は前の保有者について聞いてもいいのか計りかねていた。今までの様子からしてナギナギの実の前の保有者はトラ男君にとって親しい人であったらしい。実を知っているという話はしても、その人の話はしたことがなかった。踏み込んでいいのか悪いのか私が迷っていると、トラ男君は酒の瓶を口から離して語り出した。

「その人は、おれを育ててくれた人だった」

そこから始まった話は、凄惨なものだった。裏切り、奔走、愛、孤独。通りでトラ男君がドフラミンゴにこだわるわけだと思った。トラ男君がこの話をルフィ達にしたのか分からないが、トラ男君のことだから恐らくしていないのだろう。トラ男君は話しながら一つずつ過去を清算しているようだった。その話を聞きながら私も、ナギナギの実のことを憎く思っていた気持ちが薄れていくようだった。

気付けば宴の終わりに寝入ってしまったようだった。私は地面に寝かされており、毛布を掛けられていた。これをしてくれたのはトラ男君かミンク族の誰か……ロビン、いやトラ男君か。頭の中で無意味な問答をしていると、来客を告げる鐘が鳴った。このタイミングでの客に敵襲の文字が頭を過ぎるが、すぐにまだ揃っていないメンバーの顔を思い出した。侍の二人だ。

「そんなことしたら私達がミンク族に殺されるからやめて〜!」

必死で錦えもん達を取り押さえるも、錦えもん達は私達の手をすり抜けて通りに出る。もうダメかと思った時、ミンク族が首を垂れた。

「雷ぞう殿は……ご無事です‼」

呆気に取られる私達を置いて、ミンク族と侍の話は進んで行く。ミンク族と侍には深い繋がりがあり、モモの助も錦えもんの子供ではないらしい。さながらマジックのネタバラシをされている観客のようだが、そういう大事なことはもっと早く言ってほしい。余計な悩みまで抱えてしまったではないか。私は余計な気苦労をしてしまったと思いながらくじらの中に入った。まさかここが隠し場所になっていたなどとは思わなかった。すると現れたのは、泣いている男と赤いポーネグリフだった。

「イメージしてたのと違〜う!」

ルフィ達は雷ぞうを見て驚いているが、注目すべきはポーネグリフの方ではなかろうか。仮にも海賊王を目指しているのではなかったか。ポーネグリフについて話しているロビンの方へ行こうとすると、雷ぞうの方から想定外の声が聞こえてきた。

「分身の術を見せてみろ」

今の声は間違いなくトラ男君だ。私は思わずトラ男君を見るが、トラ男君はそんなこと知らないとばかりに無表情を貫いている。普段クールキャラでいて、実は忍者に興味があったのだろうか。

「いい歳して……」

私が小さく呟くと、「何か言ったか」と鋭い眼光で睨まれた。

「ううん何も!」

一歩後ずさりながら私はトラ男君の後ろ姿を見る。ああ見えて忍者に夢があるとは、またトラ男君の新しい一面を知られた気分だ。雷ぞうで男達がはしゃぐ中、私達はとんでもない事実に直面してしまった。

「ロードポーネグリフは最後の島『ラフテル』へ導くための石だ!」
「えっ!? じゃあもう他の海賊より一歩リードしてるんじゃないのルフィ!?」

トラ男君が他の海賊であることはさておき、私はルフィの肩を揺する。今までエニエスロビーで捕まりかけたりバラバラになったりしたが、案外夢の終着点は近いのかもしれない。私がそう思った時、次いでネコマムシが口を開いた。

「残り二つのポーネグリフは四皇ビッグマム、四皇カイドウが持っちゅう」
「そうか!」
「やっぱり嘘四皇は無理……」

一時は本当にこの船がラフテルへ辿り着けるのかもしれないと思ったが、その前にそびえたつものが大きすぎる。ナミ達と同じように項垂れながらも、私は一つの可能性を感じていた。四皇を一度に二人も相手にするのは無理だからと消極的になっていたサンジの奪還。しかし、ロードポーネグリフの写しを集めるという目的もあるならば、サンジの奪還は麦わらの一味にとって大きくプラスになるのではないだろうか。

思ってもみなかった事態に自分の心が躍るのが分かる。カイドウを倒すという名の元忍者海賊ミンク侍同盟が結成され、私達はそれぞれ航海の準備をすることになった。