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「ここがトラ男君の船かぁ〜」

 ワノ国への出発が決まった。私は案内されるままに(というよりは勝手に)ポーラータング号を見て回っていた。トラ男君は冷静そうな顔をしているが、先程から少し焦った気配を見せている。ゾロ達を迎え入れ、自由奔放な彼らが実家とも言えるこの船をハチャメチャにしないか不安なのだろう。その点は、クルーとして先に謝っておく。いいから諦めなさい。

「お前達の寝床はここだ」

 トラ男君はサニー号で甲板に座って寝ていたくせに、私達へ客室のようなものをあてがってくれるらしかった。早速部屋を吟味し始めたゾロにならって部屋へ入ると、トラ男君に腕を引かれる。

「お前はこっちだ」

 連れてこられたのは、ハートの海賊団の女子部屋だった。そういえば、ハートの海賊団には女子がいた気がする。そんなに数は多くないので、比較的ゆっくりと暮らせるだろう。

 女子部屋に滞在するのは決まりが悪いのか、トラ男君は足早に出て行こうとする。その背中に声をかけたのは、私達がもう簡単にからかい合える仲だと信じているからだ。

「『ここが名前の部屋だ』って船長室案内されるかと思ったよ〜」

 トラ男君はぴたりと足を止める。今にも「うるせェ」とか、「んなわけねェだろうが」という言葉が飛んで来るのだろう。元七武海の威厳付きで。

 しかし実際はそうでもなく、トラ男君は何を考えているのかわからない無表情で黙りこんでしまった。

「無言はやめてよ!」

 からかった私が悪いのだけど、今の状況は大変気まずい。トラ男君を恋愛面でからかってはいけないようだ。地雷でもあるのだろうか。

「詳しいことはイッカクに聞け」

 トラ男君の恋愛についてイッカクに聞くわけじゃないよね? とは、流石に言えなかった。私は大人しく返事をし、女子部屋で簡単に荷物を広げる。そういえば、ルフィ以外の船に乗るのは初めてだ。ルフィは幼馴染だから命諸々預けているが、トラ男君もそれに匹敵するのだろうか。多分、ルフィが信頼した相手だから私も信頼しただけだ。ドレスローザでどれだけトラ男君の命の心配をしていたかには見ないふりをして、私はイッカクと部屋の使い方について決めた。彼女も気が強いので即効喧嘩になったが、「キャプテンに気に入られてるからって調子に乗らないでよね」という一言で女子部屋はイッカクのスペースがほとんどになった。元々イッカクの部屋だからいいのだが、なんだか腑に落ちない気分だ。

 サニー号でのトラ男君を真似して甲板でたそがれていようかと思ったが、この船は潜水艦だった。私は海の中、暗い外を見ていた。これからカイドウと戦うというのに、どうしてか恐怖のようなものはない。頼もしい仲間が沢山できたからかもしれない。