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「ワノ国だーっ!」
海賊、それもこの国の将軍の首を狙っている以上堂々と上陸するわけにはいかない。目立たない場所に船を停め、私達はひっそりとワノ国に降り立った。今は浜辺なのでいいが、普段の格好では浮いてしまうだろう。
「おい、錦えもん! またドロンってやってくれよ」
「承知!」
私は木の葉を頭に乗せ、錦えもんの術がかかるのを待つ。
「ドロン!」
次の瞬間、ウソップやゾロは錦えもんのような着流し姿になっていた。錦えもんの能力も相当役に立つよなあ、と一人しみじみとしていると、隣でトラ男君が「おい」と声を上げた。いつの間に隣にいたのだろう。
「名前のこれは何だ」
トラ男君が親指で指すままに自分を見れば、私は何とも大胆な格好をしていた。胸の露出は少ないが、その分肩やデコルテ、足の露出が激しい。網タイツまで履かされているのは錦えもんの趣味だろうか。まあ、これがワノ国の一般的な服装だと言うなら従うほかない。
「トラ男君には刺激が強かったかな?」
得意げな眼差しを向けると、トラ男君に大きくため息をつかれた。私にナミやロビンのような色気がないからって、そこまであからさまにしなくてもいいだろう。
「ロー殿はそういうのが好きかと」
「今すぐ変えろ!」
ローの怒気を感じ取ったのか、私は露出の少ない着物姿になった。先程よりは地味であるが、着物の色が綺麗なので気に入りだ。
「いいか、おれ達はこれから町へ潜入する。それぞれが別の場所で情報を集めるんだ」
「おれは大工だな!」
「じゃあ私は芸者ね」
各々潜入するということは薄っすら考えていたのだろう。潜入先や、偽名は決めてあるようだ。
「ロー……『ろえもん』……もういっそ『えろざえもん』とかどうかな」
私は自分のこともそこそこに、トラ男君の偽名を考えていた。偽名などどうだっていい、などトラ男君の言いそうなことだ。一番楽しいのがここなのに。
「馬鹿にしてるだろ」
鋭い視線が私を射抜く。トラ男君は先程錦えもんに出してもらった帽子を深くかぶり直した。
「おれは単独で行動するから別にいい。お前もそろそろおれの名前をちゃんと呼べ」
「ちゃんとって?」
「いつまで麦わら屋のつけたあだ名を呼んでるつもりだ」
責めるようなトラ男君の視線が刺さる。そういえば、トラ男君をちゃんと名前で呼んだことはなかったかもしれない。だってトラ男君だから、と言ってもトラ男君は納得しないのだろう。
「ロー……」
なんとなく下の名前を呼んでしまったが、別に「トラファルガー」でもよかったのではないか。いや、私達の仲で苗字呼びは流石に変か。私達の仲とは何だ。目まぐるしく考えている間に、ウソップが間に割り込む。
「そこイチャつくな」
「イチャついてないし!」
ウソップはすっかり変装準備が整ったようで、役になりきっている。錦えもん達に交ざっていても違和感はない。あとは、私がどう動くかだ。一応諜報能力に長けているつもりなので働きたいが、どこへ忍び込めばいいのか。将軍のすぐそばはロビンがいるだろう。
「名前はおれと行動しろ」
私の心を読んだようにトラ男君、もといローが言った。
「さっきと言ってることが違うんですが……」
ローは先程一人で動くと言っていたはずだ。私は一人にカウントされないのか。なんとなく馬鹿にされた気分になる。ローと私の実力差など、痛いほどにわかりきっているのに。
「単独で行動するのが二人ってことだ。お前は能力を使ってワノ国の実情を探れ」
その一言で、ローが私の能力を認めて頼ってくれているのがわかった。戦闘に関してコンプレックスがあった私だが、ローの話を聞いてからもう自分を卑下しまいと決めていた。もしかしたら、ここが私の初舞台になるかもしれない。ナギナギの実とローは、とにかく相性がいいのだから。
「それじゃあ各々解散!」
かすかな期待を胸に、私はワノ国へと潜り込んだ。