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「待っ……ちょっ……無理!アッハッハ!」
「ぶひゃっひゃっひゃっ!」
「笑いごとじゃないっつってんのよ!」

トラ男君に言われた場所で待っていたもの、それは中身の入れ替わった我らが一味だった。全体的におかしい所だらけだが、個人的にはフランキーの入ったチョッパーがかなりのツボだ。サンジに体を乗っ取られたナミには激しく同情する。といっても、私はナミのような美貌もスタイルも持ち合わせてはいないのだが。

「それで、話を進めましょう」

漸く私とルフィの発作が治まった頃、ロビンが面々を見渡しながら言った。

「私達はお侍さんを元の姿に戻して、子供達を助けたいのよね?」

視線が集まるのは、いつのまにか面々に加わっていた顔の濃い人物、そして異様に巨大な子供達である。何でも侍の方はトラ男君にやられたらしい。ちなみにこの入れ替わりもトラ男君の能力のようだ。一体彼はこの光景を見せて何がしたかったのか。私達へのウケなら十分すぎる程だ。引き攣った腹筋を小さく摩る。

「ああ。サンジが助けたいらしいからな。おれ達はとりあえず研究所行こう!」
「じゃあ私もチョッパーと残るわ!」
「あっナミずるい!」
「アンタは自分の体なんだからまだいいじゃない」
「ぐっ……」
「じゃあ決まりだな!」

そう言われてしまえばもう反論はできない。昔から執拗に私を誘いたがる幼馴染は、今や麦わら海賊団の船長様である。かくして安全な場を奪われた私は、ルフィ、ロビン、ウソップ、フランキー(入りのチョッパー)と研究所へと向かうことになった。ルフィの一言が鶴の一声になるなど恐ろしい時代になったものである。

広がる雪を踏みしめ私は進んだ。そういえば雪を見るのはドラム島以来だ。さっきまではうんざりしていた程だが、こうしてみると意外に悪くないかもしれない。音を立てて遊んでいると、隣のウソップが口を開いた。

「それにしてもこの島、ヤバくねェか」
「わかる」

光の速さで同意した私はウソップの方を見る。目が合うと、お互いに考えていることが痛い程にわかった。伊達にビビり仲間を航海当初からやっていない。

「何だよお前ら、面白ェじゃんかこの島」
「お前の意見は聞いていない!」

そう、この恐れ知らずのルフィと二人で航海をしていた時のことはウソップに深々と同情されてばかりである。そもそもが無理やり連れて来られた身だというのに、ルフィは平気で危ない所に首を突っ込む。そして、今回ばかりは本気で危ない。

「だって子供を麻薬漬けにする科学者に、得体の知れない七武海、海軍までいるんだよ? 用を済ませたら出来るだけ早く出航した方がいいって」
「なんだ名前、トラ男とは友達だろ?」
「話したことすらないから!」

相変わらずマイペースなルフィに危機感すら覚える。向こうは友達どころか殺しの標的とすら思っているかもしれないのだ。死の外科医の名は伊達ではない。この二年間、情報収集だけは欠かさなかった私は彼がどんな人物か知っている。

「あら、こんな時こそ名前の能力が役に立つ時じゃない?」
「う……まぁそうではあるけど」
「もしもの時は頼んだわよ、名前」
「頼まないでー!」

私の心からの叫びは見事にスルーされてしまった。普段頼れるお姉さんなので忘れがちだが、危険な人生を歩んできたロビンも意外とルフィ側である。

「ロビンの能力こそ潜入向きでしょ。ていうかロビンの能力は何でもできるチートだけど……」
「あら、チートなんてことないわよ」
「ある!」

私はロビンの能力を何度羨ましく思っただろう。どこからでも自分の体の一部を出せるハナハナの実。それは戦闘にも日常生活にも大役立ちだ。怒号の飛び交う戦場で一人優雅に腕を交差させるロビンはまるで女神か何かのように見えた。

「いいなぁ……」

そう呟くと、ロビンは困ったように微笑む。長い時間を共にしたロビンは知っている。私が悪魔の実にコンプレックスを抱えた人間であること、自分の能力を好きになれないことに。これ以上は困らせるだけだと判断して私はまた前を向いた。すると、突如として体に異変が走る。

「何だ!?」

慌てて見聞色の覇気を張り巡らせると、ナミやチョッパーが誰かに襲われているのが見えた。それも人間ではない、全身毛に覆われた怪物にだ。

「戻ろう! ナミ達が危ない!」
「ああ! この足跡も変だ!」

ふと足元を見れば、そこには到底人間のものとは思えない足跡が広がっていた。何故私は気付けなかったのか、仲間を危機に晒してしまったのか。その悔しさを抱えながら、走る。