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 ローの言う通り、私は単独で動いた方がいいようだった。とにかくどこにでも潜り込めるのがナギナギの実の長所なのだから、一つ拠点に絞らず放浪していた方がいい。その点では、私はロビンやフランキーのように役を決めずにローと同じようにした方がいいだろう。

 私が出入りしたのは花の都と、その付近にある町いくつかだ。花の都は豪勢であるものの、それ以外の町のほとんどで食べ物に窮していた。特に九里では飲み水すらまともになく、人々は不健康そうな顔色をしていた。

 いずれにせよ、九里でカイドウの情報は得られなさそうだ。私はそっと九里を後にし、花の都へ潜入する。将軍の部下から、将軍の警備や部下の能力をある程度聞きだせた。これは後で役に立つかもしれない。

 何かやったら、褒められたくなるのが小物の生き方である。ロビンには会いに行けないので、私はローを探した。ローは電伝虫で呼べばすぐに来た。そういえば、私が行くべきだったかもしれない。

「聞いて、私大活躍」

 ローならこの実で得た情報を嬉々として聞いてくれるだろう。その予想は、呆気なく外れた。

「名前を連れて行きてェとこがある」

 ローがあまりにも真剣な顔をするものだから、私まで緊張が移ってしまった。ローがそこまで私に見せたいものとは何だろうか。もしかして、夜景とかその類のものだったりして。今まで能力のことがあるからとお茶を濁していたけど、はっきり言ってローは私を好きなんじゃないか。だって、そう捉えられることが沢山ある。私がスケベな服を着せられて怒るなんて、ナギナギの実は何も関係ないだろう。

「ここだ」

 ローにその気があったら、私は麦わらの一味を出なくてはいけないの――?

 期待と恐れを持ちながら顔を上げた先に、丘があった。土と少しの緑、それから刺さっている木。それだけだ。ロマンスの欠片もない光景に、私は思わず声を出した。

「何ここ?」

「墓地だ」

 墓地!? と声を上げてしまった。ローにそういう趣味がある可能性も否定できない。墓場で告白なんて死の外科医らしいだろう。だが、私はすかり気落ちしていた。

「どうせローはナギモクなんだ……」

 ナギナギの実しか目当てではない、ナギモク。

「何言ってんだ。誰の墓かよく見ろ」

 しょんぼりした面を上げ、木に書かれている文字を見る。そこには見知った名前が刻まれていた。

「錦えもん、カン十郎……!?」

「ああ。あいつら全員、死んだことになってやがる」

 理解が追いつかない。錦えもんは確かにワノ国で色々あったようだけど、墓まで作られているのは何なのだろう。それも、昨日今日作られた墓ではない。軽く十年は経過していそうな風貌だ。

「待って、こわい……」

 私はまだ残っていた恋愛気分でローの腕につかまったが、ローは何も言わなかった。さては本当に、私のことが好きだな!? そのくせに墓地に連れてきたのだと思ったら、腹立たしくなってきた。

「おれはこの辺をもう少し探る。名前は引き続き花の都を探れ」

「あ、そうだ、私護衛の能力とか手に入れて……」

 そういえば、そのためにローを呼び出したのだと思い出す。ローを見上げれば、ローは存外優しい顔をしていた。

「よくやった」

 私の頭が撫でられる。その手の温もりを感じながら、確かに上司でもルフィには抱かない感情だ、と思った。それが何なのかは、わからないけれど。