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 私はワノ国へ人間関係を築きにやってきたのではない。カイドウを倒しに来たのだ。ナギナギの実のことで少しドフラミンゴに入れ込んでいたが、そもそもローとの同盟はカイドウを倒すことが最終目標だった。

 ならば、今までのことを無駄にしないように。たとえこれでローとの仲が終わりだとしても、思い出に傷をつけないように、カイドウと戦う。

 気合は誰も万全で、早速鬼ヶ島に乗り込んだ。錦えもんの能力でカイドウの部下の格好に着替えるが、今となってはその派手さを咎める人もいない。まだローのことを考えている自分に少しの苦笑が漏れる。どうせカイドウを倒したら終わる同盟なのだ。そして、私達の目標はカイドウを倒すことである。私達の仲は、終わることが正しいのだ。

「行くぞ!」

 宴の真ん中にルフィと突入する。正直、正面きっての戦闘は得意ではない。それでも、この機にルフィを討とうとする誰かを倒すことくらいならできるのではないかと思う。暗躍なんて言葉は大袈裟かもしれないけれど、この実の前任者はそうやって使っていたはずだ。

「ルフィ、やっちゃえ!」

 誰もルフィが潜入をおおせるなど思っていない。地面に捨てられたおしるこを見て、ルフィの拳が手下に迫った。ゾロも刀を見せ、次々とカイドウの部下を倒していく。

 空間そのものを覆って音が出ないようにしていた私だが、周りの者が倒れていけばいつかは気付かれてしまう。

「侵入者だ!」

 そうなった時に、既に手遅れの事態になっている。私とルフィとゾロがいれば。ここまで力を上げることができたのは、いや、自信を持つことができたのは、きっとローのおかげなのだ。

「行って!」
「ありがとう!」

 二人が上へと進んで行く。カイドウの手下の、プレジャーズくらいなら私にも倒せるはずだ。私の戦いの場所は、きっとここだ。

 そう思っていた時、上へ行ったはずのルフィが押し戻される。

「うわぁっ!」
「ルフィ!」

 見れば、ルフィもゾロも怪我をしている。刀を使った形跡もないのに、ルフィがどうして。

 二人の向かいにいたのは同じ”最悪の世代”のスクラッチメン・アプーだった。新聞は欠かさず読んでいる私だ。その戦い方は、なんとなく知っている。それでいて、ルフィやゾロが戦っているのを見て、思ったことがある。アプーは音を使って攻撃しているのではないか、と。つまり、私の能力があれば攻撃を封じられる。ルフィやゾロをカイドウの元へ向かわせられる。

「名前?」

 突然ルフィの隣に出た私に、ゾロは驚いたようだった。私はアプーに視線を向けたまま、ルフィに語りかける。

「あいつ、私にやらせてくれない?」

 一味の他のメンバーも戦闘に入ったのだろう。城内はどことなくざわついている。その喧騒の中で、私達の周りだけが静かだった。

「名前が戦ったらうるせェ奴がいるんじゃねェのか」

 ルフィの判断を待つように、ゾロが控えめな声で言う。確かに、ローはドレスローザで私を徹底的に脅威から遠ざけた。今のローはどうなのだろう。私に安全な場所にいろと、まだ言うだろうか。言ったとしても、私は海賊だ。守られてばかりではない。ナギナギの実を食べたからには、相手を倒すのだ。

「名前はおれの仲間だ! トラ男だって戦う名前が好きなはずだ!」

 ルフィはそう叫んだ。「好き」の言葉に私は触れなかった。構っている場合ではない、というのもある。私は思った以上に、「ローが私を好き」という状況を受け入れられている。

「戦え! 名前!」
「了解!」