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 私はアプーの前に躍り出た。アプーの値踏みするような目が私に向けられる。上から下まで、じっとりと眺められる。

「麦わらの仲間か? おれがやらなくても自滅しそうだな」

 さっきから心臓が痛いほどにうるさい。私の血液はここまで速く循環できるのかというほどに、体を巡っている。私は生きている。生きて、ルフィとみんなと大きな宴をする。

「待て麦わらァ!」
「”凪”!」

 アプーがルフィを追おうと背を見せた一瞬、私はアプーに手を伸ばした。悪魔の実は完全ではない。相手が強い覇気使いだった場合、効かないこともある。そもそも、見聞色の覇気を鍛えているならかわされることだって考えられる。

 しかし私はアプーに触れた。私自身の音を消していたことと、私が見聞色の覇気に長けていたことが幸いしたのだろう。私は自分の気配をほとんど消すことができた。そしてアプーが私をどかせようと体を鳴らした瞬間、私は無傷だった。

「……!」

 アプーが何かを口走る。何で、どうして。恐らくはそう言っている。この状態が続けば、どんな馬鹿でも私の能力のからくりに気付くだろう。そこからが本番だ。

 流石最悪の世代と言うべきか、この状況に瞬時に対応してきた。能力で攻撃できないなら体術で攻撃すればいい。私の体格を見たら、誰だってそう考えるだろう。だが私だって自分の弱点くらい把握している。二年前ルフィが敗れた日から、ドレスローザで徹底的にローに守られた日から、何もしてこなかったわけではない。

「……!!」

 私は武装色の覇気で自分の体を守り、次いで爆薬を取り出した。ゾウにてペドロが持っていたものだ。素早く火をつけ、アプーの体に差し込む。そして一瞬だけ、凪を解除した。

「馬鹿め……」

 その瞬間、発動したアプーの能力の勢いを得て爆薬は猛烈に破裂する。無音の空間の中で、アプーは城の深部へと沈んでいった。誰も私の手柄を知る人はいない。ルフィやゾロでさえ、心配そうに私を見てはいない。しかしそれが、私にとって限りなく名誉なことなのだった。

「やったよ……!」

 生きたい。生きて、ローにナギナギの実でアプーを倒したことを報告したい。前のように頭を撫でてくれなくていいから、私はナギナギの実で結構頑張っているのだと知ってもらいたい。

 しかし覇気を使い果たした私がカイドウの城でこれ以上戦えるわけもなく、ひっそりと物陰に潜んで戦いの状況を見守っていた。ルフィは、ローは、きっと勝つ。