▼ 5 ▼


次に気付いた時、私は鎖に縛られて檻の中にいた。落ち着いて周囲の状況を見回そうとした私は、頭上を飛び交う会話により脱力した。檻の中では、同じく拘束されたと思われるルフィとロビンが呑気に話をしていたのである。

「おっ名前! 起きたのか?」
「何でそんなに楽しそうなの?」

こちらは最悪の目覚めだ。ルフィの方を見ると、同じく現状に失望しているらしいスモーカー(入りのたしぎ)と目が合った。海軍と一緒に捕まっているなどますます状況は絶望的だ。仮に脱獄することができたとしても、タイミングが悪ければ私達は檻を出るより先に殺されてしまうことだろう。

ふと反対方向を向いた私は、情けない声を上げそうになって寸前の所で押しとどめる。私が横を向いたすぐ先には、鎖に巻かれたトラ男君が横たわっていたのだ。今までロビンのものだと思っていた温もりは全てトラ男君のものだったことになる。私は咄嗟にルフィの方へ寄ろうとした。しかし縛られている状態では上手く動けず、何度か身をくねらせただけだった。トラ男君はそんな私を横目で見ていた。マスターだか海軍だか知らないが、檻に並べるなら順番というものを考えてほしい。

私が心の中で文句を並べていた時、シーザーは突然グロテスクな心臓を取り出し掴んでみせた。すると呼応するようにトラ男君が激しく身悶えする。

「トラ男君!?」

私の声に反応し、トラ男君は薄く目を開けてみせた。その表情は苦しそうで、トラ男君が今危害を与えられたことを示している。

「お前……」

掠れた声でトラ男君が言う。しかしトラ男君が何か続けるより先にシーザーが再び心臓を攻撃し、トラ男君はまた喚声を上げた。激しく身を痙攣させたトラ男君は既に私の上へ半分くらい体を乗り上げていた。その状況に、動揺している場合ではないことは分かる。

シーザーを見ると、シーザーは何やら巨大な実験を始めたらしかった。人が波に飲まれ、蝋人形のようになってゆく様子が映し出される。いずれ私達もそうなるのだろう。空調の効いた室内から極寒の外へと出されるのを感じながら、この短い生涯に思いを馳せた。最後は見世物として毒死だなんて女子としても海賊としても嫌だが、ルフィが海へ連れ出してくれたおかげで楽しいことが沢山あった。それらの経験は、決してフーシャ村にいては積めなかったものだろう。死ぬ直前に思い出すのがルフィのこととは、私の人生は意外にもルフィで満たされていたらしい。私が笑みすら浮かべていた時、隣のトラ男君が口を開いた。

「作戦は変わらず……今度はしくじるな! 反撃に出るぞ」

この状態で一体何ができるのかはわからないが、私には一つ言っておかなければならないことがある。

「あの、私の鎖海楼石じゃないみたいなんだけど……」

反撃しないところを見るにルフィ達は海楼石の鎖のようだが、私は普通に能力が使える。シーザーは私が能力者だと知らなかったのだろうか。それとも、拘束する必要もないと思ったのだろうか。思いを巡らせる私の横で、トラ男君が「お前は運がよかったようだな」と言った。

「この中で誰か物を燃やせる者は? 向かって右下の軍艦を燃やせるか」
「お安い御用だ!」

炎を出そうと息を吸い込んだフランキーに、私は「待って!」と声を掛ける。トラ男君が何をしたいのかは知らないが、これでは目立ってしまう。ここは数少ない私の能力の出番である。

「”凪”!」

私はフランキーまで身を捩って進むと、能力の”凪”をかけた。これでフランキーの発する音はなくなったはずだ。

「ありがとな名前! フランキー〜ィ・”ファイアーボール”!」

途端に炎が戦艦に向かって放射され、辺り一帯に黒煙が立ち上がる。ようやく自分の能力が役立つ時が来たと喜んでいた私は、煙の中でトラ男君がどんな顔をしていたかも知る由がなかった。