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檻が煙に包まれると、トラ男君はいとも簡単に鎖を外してみせた。何でもトラ男君は最初から海楼石の鎖の中にただの鎖も混ぜておいたらしい。先程私に運がよかったと言ったのはそういうことだったのだろう。トラ男君はフランキー、ロビン、ルフィの鎖を順番に斬ると、私の前で立ち止まった。自己申告したのだから、私の鎖がただの鎖であることは知っている。お前も能力者なら自分で解けと、トラ男君は言うのだろうか。

「……お前の能力じゃ、無理だろうな」

トラ男君は私にしか聞こえない声でそう言うと、私の鎖を斬った。トラ男君の前で能力を使ったことは一回だけだというのに、トラ男君は私の能力を知っているのだろうか。トラ男君が初めて会った時から私のことをじっと見ていることに、何か関係があるのだろうか。

私が何か発するよりも早く、トラ男君は体の向きを変えた。残る二人、スモーカーとたしぎをどうするかだ。私は正直襲ってかかられたら負けるのでこの場で捕まえておいてもいいと思うのだが、トラ男君は交換契約をすることにしたらしい。先の事を考えて取引ができるのは流石だ。ルフィならば誰でも無条件で逃がしてしまうことだろう。

ふと横を向くと、やはりトラ男君が私をじろりと見下ろしていた。聞きたいのはやまやまだが、今はその時ではない。

――無事この島を出られたら、さっきから私のことずっと見てる理由教えてよね。

「さっきの約束、忘れないでよ」

私は小さく言って、ルフィの背中を追ったのだった。


先のことを考えて冷静に動ける人間だと思っていたが、ルフィと同じ最悪の世代の人間である。派手に暴れるのが好きという点では変わらないらしい。気付けば私達麦わらの一味とトラ男君、それにスモーカーとたしぎは、研究所内で仲間を待ち構えていた。主にやってきたのは海軍だったが、後から私達の仲間も来たのでよしとしよう。一味は全員揃った。後は海賊らしく、暴れるのみである。

と言っても、何回も言っている通り私の能力は戦闘向きではないし、サンジのように素手での戦闘能力が高いわけではない。私にできることは精々皆の補助か、不意打ちをすることくらいである。吸ったら死ぬガスから逃げたり、薬漬けにされている子供達の相手をしていたら当然のように麦わらの一味は別れた。勿論ルフィについて行っては命がいくつあっても足りないので、私は後方支援に徹させてもらう。

強敵の相手はいつだってルフィやゾロ、サンジが行ってくれたし、一味の皆がそれが一番早いと了解していた。しかしそれならば私は、何故こんな所にいるのだろう。

安全な出口の確保をするはずだった私は、遠くから聞こえる戦闘音に一人身を潜めていた。派手な破壊音が聞こえる前からヴェルゴやスモーカーの前に姿を現さずに済んだのは見聞色の覇気のおかげである。修行をするならこの島でしていけと言うハンコック達に甘えてよかった。貧乳にとって女ヶ島は地獄だが、覇気の教え方は随一である。その覇気を張り巡らせると、トラ男君は今ピンチであるらしかった。

心臓を取られているのだ。握りつぶされるだけで身悶えていたのだから、戦闘に集中できるとはとてもではないが思えない。だが、今私が行っても余計戦況を悪くするだけだろう。音を消す以外何もできない自分の能力を酷く憎く思った。もし今私が出て行ったなら、トラ男君は私を守ろうとしてくれるのだろうか。海賊同盟を結んでいるから。会うたびに私をじっと見つめるほどの因縁があるから? 私が縮こまっていた時、スモーカーの声がした。

「これで借りはナシだ……!」

その少し後に、今まで消耗していたトラ男君の気配が威勢を取り戻す。私が思わず顔を出したのとトラ男君が刀を構えたのは同時だった。

「お前は危ねェから引っ込んでろ……!」

私を庇うように片手を横に出し、トラ男君はヴェルゴを斬る。あ、これ私邪魔なやつだ、と気付いた時には既にヴェルゴは私に狙いを付けていた。しかしトラ男君はヴェルゴが私の方へ向かうことを許さず、体を一刀両断、そこからまた小さく切り刻んでゆく。守ってくれるのは有難いが正直見ていられるものではない。気付けばヴェルゴは体のパーツを最小単位にまで切り分けられ、柵にくくりつけられていた。