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翌日おにぎり宮の戸を開けると、治が開口一番に「どうやった?」と聞いた。そんなに気になるほど重要な話だったのだろうか。ならば私に任せない方がよかったのにと思いながら、私はカウンター席に腰掛けた。

「別にそんな大した話はしてへんわ。またおにぎり宮がどうなってるか聞かせてくれ言うて、定期的に行くことになった」
「そか」

治は嬉しそうな表情でおにぎりを握る。そんなに北さんとの仲が大事なら何故自分で行かなかったのかさらに謎だ。私としては、気まずくて仕方なかったというのに。

「それでもなんとか普通に話せてよかったわ」

私は治の視線を感じながら、出されたおにぎりを口に運ぶ。相手が北さんだと分かった時から、私が行ったせいでおにぎり宮と北さんの仕事仲まで悪くなるのではないかと心配していた。だが、北さんはそんな小さい男ではなかったようだ。

「なら、その仕事毎回お前に任せる」
「へ?」
「どうせ暇やろ? 北さんへの報告はお前が行ってくれや。報告内容は俺が事前に出しとくから。報酬としてウチの料金はタダにしたる」
「乗った」

言わばおにぎり宮のサブスクリプションと聞いて私は素早く首肯した。幸い北さんとの仲は思ったより気まずくないし、街を離れて田舎に行くのもいい。こうして私と治の契約が成立した。


次に北さんの家を訪れたのは一ヶ月後だった。毎月通うことになるのだろうかと思いながらも、別にそれを悪くは思っていない自分がいる。私が行くと北さんは既に家で待っていて、私を居間へ通してくれた。北さんが作業着だから気にしなかったが、私もスーツかオフィスカジュアルの方がよかっただろうか。今更な事を思いながらも、私はまた茶を受け取る。

「で、どうなんや最近は」

北さんの言葉を皮切りに、私は治が作った報告書を思い出しながらおにぎり宮の近況を報告した。北さんはまるで祖父のような表情で頷きながら聞いてくれている。この間よりよっぽどビジネスライクな会話ができたと、私は密かに満足していた。

「今の時期は米作れへんからなぁ。俺の方は野菜作っとるわ」
「何を作ってるんですか?」
「芋とか、大根とか、色々」

その言葉に私の頭にとある考えが浮かぶ。私はただの訪問係だというのに、出しゃばりすぎだろうか。でも提案するくらいならいいだろうと、私は口を動かした。

「その野菜もおにぎり宮に出しませんか?」
「野菜もか?」
「治、最近は野菜系で攻めとるんです。北さんのお米えらく気に入っとるから、野菜も仕入れたいって言うかもしれません」

私がそう言うと、北さんは少し考えた後に「後でサンプル送るわ」と言った。私は頭を下げ、北さんの家を後にする。今日はまるで自分がキャリアウーマンになれたかのような気分だった。