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あれから、私にとっては長くて仕方ない時間が流れた。時計を確認する余裕はないから実際にどれだけの時間が経ったのかは知らない。だが確実に言えるのは、北さんと手を繋いでいるという状況に緊張している私を弄ぶかのように北さんは手を繋いだまま何もしないということだ。大の大人が二人並んで、手を繋いだままぴくりとも動かない。北さんは二人分の手を見てふと笑って口を開いた。

「いい歳して手しか繋がないなんて変なもんやな。高校の頃の方が、もっと色々やってたのにな」
「今はそういうこと言わんでええですから!」

私のリアクションが可笑しくてたまらないというように北さんはまた笑う。気付けば北さんの掌の上だ。北さんとはこんなに意地悪な人だっただろうか。
試しに北さんの方を見てみると、優しい目をした北さんが「何や」と言った。

「何でも、ないです……」

好きな人の、柔らかな表情に私は弱い。初めて私の生肌に触れた時も、雄の雰囲気を纏いながらも優しい顔で私を安心させてくれたのを覚えている。私がもう片方の手でそっと北さんの頬に触れると、北さんはその形のいい頭をこちらへ向けた。

「してもええぞ」

私は北さんの頬に手を当てたまま眉を上げる。相変わらず上から目線で、私のことなど何でも分かっているという口調だ。実際、物理的にも年齢的にも北さんの方が上なのだけれど。

「そうやって私に任せるのやめてもらえます? 男でしょ」
「俺はしたいけど、お前はしたいかどうか分からんからお前に任せる。お前がしたかったらしろ」

私を恥ずかしめるための押し付けかと思えば、その理由は私の合意なしに性的行為をしないためという何とも律儀なものだった。知っている。北さんが筋の通らないことはしないことはよく知っている。でも北さんの彼女になってから、たまに北さんは私をからかって遊ぶということも知っている。

「それじゃ、しますよ」
「おう」

わざわざ声をかけてから、私達は中学生のような触れるだけのキスをした。下手くそとからかわれるのではないかと思ったが、北さんは顔を離すと穏やかな表情で前を向いていた。

「ごちそうさん」
「ごちそうさんってなんかおっさんくさいですよ、それ」
「俺ももうおっさんやろか」

私もキスをしたかったのだということが分かっているくせに北さんは触れようとしない。その配慮がありがたいようで、どこかもどかしかった。

「ほら、あんま遅くなると治に心配されんで。もう帰り」
「前も言いましたけど治は彼氏でも何でもないですから!」

北さんに追い立てられるように私は立ち上がって玄関へ歩く。ようやくこの空間を出られることに安心しながらも、私は寂しさのようなものも感じていた。

「そんじゃ、また」
「また来ます」

本当はもっと長居したり、北さんが誘うのならば泊まりだってしたかったのに。想いは通じ合っているはずなのに、名前を変えない関係性がにわかに私を焦らせた。