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影山君来訪事件から一週間が経った。私はといえば、彼氏ができたわけでもないのに可愛い部屋着を購入し、ついでに夕食の献立にも凝ってみている。一度来たからといって影山君がまた来る保証はないが、影山君という異性の来訪が私の中の意識を変えたのは事実だった。
前回影山君が来たのは十時頃だった。すっかり部屋着に着替え、寛いでいる時間だ。ただでさえ安アパートに住んでいるというのにだらしない部屋着や食べた気もしない食事では恥ずかしくて仕方ない。気付けば影山君を待っているような自分に驚きつつも、これは私にとっていいことなのだと言い聞かせた。
そして案の定、前回から二週間後に影山君は現れた。扉を開けた瞬間からその大きなシルエットで分かる。影山君は申し訳ないという様子で項垂れながら、しかし真っ直ぐに私を見下ろして言った。
「入れてくれませんか」
確かに影山君の身になれば申し訳なさばかり感じてしまうと思うが、影山君の来訪を予期して準備していた私としては心躍るものがある。今日の夕飯はタンドリーチキンだし、今着ているものは買って一週間も経たない新品だ。キッチンに立って準備する私の横で、影山君は静かに座っていた。影山君の前にあると、家具量販店で買ったローテーブルが余計小さく感じる。私はご飯と一緒にタンドリーチキンを出し、影山君の向かいで影山君が食事をする様子を眺めていた。
こうして見ると、影山君はあの頃から変わらないのではないかという気がする。いつでもバレー第一で、バレーのためならば食事にもトレーニングにも一生懸命になる影山君。目の前にいるのは、そんな一人の男の子だった。
「プロになってどう? 面白い?」
「すげぇ楽しいっス。あと牛島さんも同じチームです」
「あ、それ前に見た」
ストーカーじみていると思われただろうか。だが高校時代の後輩がプロになってどうしているかくらい追っていてもいいだろう。牛島若利と私達は一度戦い、激戦の末に勝利したのを覚えている。
「苗字さんは、仕事どうなんスか」
「え、私?」
思わず変な声が出た。影山君は自分から余計なことを話さないというか、聞かれれば答えるが自分から話を振ったりはしない人だと思っていたのだ。影山君も社会に出てコミュニケーション能力を身につけたのだろうか。
「うーん……まあ、ぼちぼち」
チームの中でもスターティングメンバーとして活躍している影山君の前で到底怒られてばかりだとは言えず、私は適当に誤魔化した。影山君は私の答え自体に大して興味はなかったのか、「そっスか」と言ってタンドリーチキンを食べ終えた。
「皿、洗います」
そのまま食器を持ってキッチンに向かう後ろ姿に、私は漠然と背が高くなったなあなんて考えていた。