▼ 3 ▼


「チームのこととか色々あるから、出来るだけ俺と付き合っとることは内緒にしてほしい」

玄関にしばらく座り込んだ後、侑はメッセージアプリを開いて名前に送った。これは半分本音で半分は卑怯な自分の術である。週刊誌の記者とは恐ろしいもので、アイドルや俳優だけでなくプロアスリートのスクープも狙ってくる。侑は一応未婚であるし、あくまでバレー選手なので熱愛報道が出ても致命的なダメージはない。が、やはり週刊誌に騒がれるのは避けたいというのが侑の本音だ。名前自身にも迷惑をかけてしまうかもしれない。など体のいいことを並べて、結局侑は自らの保身に走っているのだった。

今、侑と名前は到底付き合っていると言えないだろう。お互い好き同士なのは確かなのだが、侑には後ろめたい事情がある。いつその真実が名前に知られて、別れるという話になるかも分からないのだ。そうなった時のことを考えて、侑はできるだけ名前との仲を内密にしたかった。

少しの間を空けて、名前から返信が来た。スタンプではない、きちんと名前自身の打った「わかった」という文字。名前が侑の立場を考え、気を遣ってくれたのだということが分かる。実際は自分の不手際の後始末だというのに、健気に侑を想う名前を想像しては自己嫌悪に陥った。これは、本当に早く真実を告げるべきではないだろうか。侑はしばらく画面を見つめた後、スマートフォンをソファに投げた。


騙しているとはいえ好きな人と付き合っているというのは心地のよいもので、バレーの調子もいくらか良い気がする。名前に左右されてしまうとは侑のメンタルもまだまだ鍛える必要があるというものだ。名前にフラれる日が来ても、侑はそんなことは何も関係なかったかのようにバレーをしなければならない。侑の決めた道はバレーなのだから。一日の練習を終えロッカールームに戻ると、スマートフォンが新規メッセージの受信を告げていた。

「お疲れ様。今週の日曜日、一緒にどこか行かない?」

読み終わった瞬間侑は思わず天を仰いだ。これはデートの誘いだ。名前は純粋に侑を好きで、二人の間には何の障害もない至って普通のカップルだと思っているのだ。あまりの侑との違いに頭を抱えたくなる。付き合えたことに浮かれているのは侑も同じなのだが、侑は毎日あの嘘がバレるのではないかと怯え暮らしているのだ。侑はキーパッドに指をフリックさせると、「わかった」と打ち込んだ。断る選択肢は、侑にはなかった。