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「進路希望調査書配られたか?」
「うん。一応大学進学にするつもりだけど」
「俺もだァ」

実弥は特に理系科目について上位の成績だ。弟妹のことで進学を迷っている節があったとはいえ、大学に行くことに決めたのだろう。実弥が大学に進学すると宣言した時は教師陣が安堵の息を吐いたそうだ。私はといえば良くも悪くもない中位の成績なので、大学に行くも行かないも私次第というところである。

「私は頭悪いから実弥と同じ大学には行けないや」
「たりめェだろ。恋愛で大学選ぶんじゃねェ」

この真面目さが何とも実弥らしい。本当は、たとえ学力が同じでも実弥と同じ大学には行きたくないと思っていた。いつ別れるかわからない恋愛をしている以上、別れた後はできるだけ気まずくなりたくない。

「でもこうして今世でも出会えた以上、もっと一緒にいるのもいいかもなって、思っちまうなァ……」

実弥はどこか別の方を見ながら言った。普段強気の実弥には珍しい、直球な感情の吐露だ。実弥と付き合ってから知ったことだが、実弥はこういった発言をすることが稀にある。「勝気」ではなく「男らしい」というのが実弥の性格なのだろう。私が実弥を見ていると、突然背後から低い声がした。

「その恋愛は、やめた方がいい……」

咄嗟に振り向くと、そこにいたのは教育実習の悲鳴嶼先生だった。私が何か言うより早く実弥が反論する。

「だから同じ大学には行かねェって言ってんだろ」

悲鳴嶼先生はしばらく黙ってそこにいたが、やがて踵を返してどこかへ行った。

「ったく、何だったんだ今の……」

実弥には悲鳴嶼さんの記憶がないようだった。教育実習に来た日もしやと思ったのだが、実弥は何も気にしていない様子で「でけェオッサンだな」と言っていた。とりあえず悲鳴嶼先生を見たことで今までなかった記憶が呼び起こされるという最悪の事態は回避できたようだ。問題は、悲鳴嶼先生が前世の記憶を持っているかだった。

悲鳴嶼先生が今まで実弥や私に干渉してきたことは一度もない。しかしもし記憶があるとするならば、今世で付き合っている私と実弥を見て何と思うだろうか。今の一言も、一見恋愛感情に進路を左右されるなというアドバイスに思えて実は美乃さんのふりをしているこの恋愛自体をやめろと言っているのではないだろうか。考え始めたらきりがない。けれど、今私が実弥と付き合い続けられているということは悲鳴嶼先生は何も言っていないのだろう。それを有難いと思う自分が酷く醜いと思った。