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実弥と付き合って長らくが経つが、実弥は恋人らしく映画や街に出掛けるよりも互いの家で穏やかな時間を過ごすことを好んだ。これは前世から変わらないことだった。実弥は美乃さんをどこかに連れ回すことなく、風柱邸に招いて庭を散歩したり縁側で並んで話したりしていた。背中に「殺」の字を掲げた実弥からは想像もできない大人しさだろう。だが本来実弥というのは風のように穏やかな人であるのだろうと、二つの人生で実弥を見てきた私は思う。

今日は珍しく実弥の家に来ていた。小さい子供がいるためいつも散らかり、賑やかな実弥の家だが、私はそんなところも好きだ。歳の大きい実弥と弟の玄弥君には個室があてがわれているようで、実弥の家には狭いながらも実弥の空間があった。そのあまりの慎ましさからセックスなどをするには到底スペースが足りないのだけど、二人の仲を深めるのにはいい。人二人と鞄で既にいっぱいになってしまった部屋で、私は手を伸ばした。

「なんかもうみんな私のこと覚えてくれちゃったね」
「まァいっつも来てるからなァ……それに、あいつらにちゃんと紹介してやりたかったんだ、お前のことは」

実弥はそう言って優しい顔をした。前世では実弥と玄弥君以外の兄弟は殺されてしまった。鬼に変えられた二人の母親・志津さんによってだ。その前にも父親からの暴力があったと聞く。実弥が前世で頑なに恋愛に触れようとしてこなかったのは、自らの家庭環境があまりよくなかったからというのもあるのだろう。最終的には美乃さんとの縁談を受けることになったが。

実弥が見合いをする頃には、実弥の家族はもういなくなってしまった。唯一の肉親である玄弥君でさえも実弥は失ってしまったのだ。幸せになる覚悟をし、この人と生きると決めた実弥は玄弥君や兄弟達に美乃さんを紹介したかったことだろう。現に実弥は私を家族に紹介して時代を超えて美乃さんを家族に会わせた気になっているが、勿論私と美乃さんは別人である。もし怨念なんてものがあるなら、私はあの時代の実弥の兄弟達の幽霊に馬鹿にするなと呪われてしまうことだろう。本当は言いたい。私は美乃さんではなく、実弥が紹介するべき人は別にいるのだと。でも私が家にいる時の実弥があまりにも幸せそうな顔をするものだから言い出せずにいる。こうしてまた私欲を満たす、私はずるい女だ。

「また来るね」

帰り際、玄関の前に入る小さな弟妹に向かって言う。すると彼らは可愛らしく手を振ってくれた。弟妹の無邪気さを見ていると思う。私はいつまでこうしていられるのだろうと。