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教室へ戻り、私は食べ損ねた弁当を開いた。今日は用事があるからと友達同士でのご飯を断ったため一人飯だ。自分の席で弁当を食べていると、どこかから戻ってきたらしい佐々木君が隣の席に着いた。私と同じように慌ててご飯をかきこむ様子を私は横目で見る。治は一年の時、私と隣の席だったことをきっかけに私を好きになったらしい。本人の口から聞いたわけではないけれど、大体そんなところだろう。つまり、隣の席同士というのは恋が始まる関係というわけで。私に好きな人ができるとしたら佐々木君なんじゃないだろうか。なんて思うとこんな日常にも緊張してくる。

「何や苗字、そんな俺見て」
「あ、いやどこ行っとったんかなって」

本人にバレてしまった私は慌てて誤魔化した。別にそこまで気になるわけではないが、大方委員会などだろう。

「彼女に借りたノート返してただけや」
「そうなんや……」

私は脱力して自分の弁当へと視線を戻した。佐々木君、彼女いたんだ。知らない間に失望している私がいる。いや、別に佐々木君のことは好きでも何でもないのだけど。治と私の恋が始まったように隣の席で恋愛関係になる、ということは今回はできないようだ。あとどうやって恋愛を始めていいかなんて私は知らない。この一ヶ月の間に、本当に好きな人ができるのだろうか。


そういう目線で見れば、意外と候補になる男子は多い。サッカー部の大井君は言わずもがな人気だし、目立たないが優しいという理由で図書委員の高橋君も密かに人気がある。学年どころか学校で人気の宮侑は治の双子の兄弟ということで今回は除外させてもらう。私が恋愛に積極的ではなかっただけで、実は始めようと思えば男女共学は恋の種がいろんな所に植わっている。さながら今の私は男に飢えた婚活女子のようであることだろう。

もし私が大井君を好きになったと言えば、治はどうするだろうか。兄弟の侑に頼んで私が本当に大井君を好きであるか確かめようとするだろうか。それとも好きになったのなら告白しろとけしかけてくるだろうか。恐らく治はそのどちらでもなく、「そか」と言って身を引くことだろう。治のそんな誠実な一面を知っているからこそ、嘘を言うのは気が引ける。というか、大井君にも申し訳ない。私は本気で好きな人を作らなければいけないのだ。治が言った期限である一ヶ月が過ぎる前に。机に化粧品を出しながら盛り上がっている派手な女の子達を見ながら、今だけは代わってほしいと失礼なことを考えた。