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「ああ、好きな人欲しい」

翌日の昼休み、私はジュースの紙パック片手に呟いた。一ヶ月なんてあっという間に過ぎてしまう。このまま約束の日時を迎えれば、私は自動的に治の彼女となる。気持ちの通じ合ってない恋愛なんて虚しいだけだ。なんとしても本気の好きな人を作らなければならない。けれど、「好きな人」というのは無理して作るものではないだろう。「彼氏」というのは作るものかもしれないけれど。

「名前も恋愛する気になったん?」

一緒にお昼を食べていた友達がこちらを見る。彼女が恋愛をしている様子はよく聞かされている。とりあえず治とのことは伏せておいて、相談するのも悪くないかもしれない。

「そんなとこ」
「名前は高校生やっちゅうんに全然恋愛せえへんかったからなぁ。去年やって結局治と何もなしやし」
「せやせや。私、絶対名前と治は付き合うと思っとった」
「ちょっと待って!?」

私は紙パックをテーブルに置いた。ストローから僅かにいちごオレが吹きだす。だが、今はそんなことに構っていられない。

「私達そんな目で見られてたん……?」
「そんな目っていうか、なぁ」
「誰が見ても付き合う一歩手前って感じやったで」

私は心の中で密かに治の名前を叫んだ。私からすれば友達の延長のような感覚だったが、しっかり恋愛感情を周りにも見せつけていたらしい。気付けば外堀が埋められた気分だ。人畜無害な顔をしてやることはやっていたのだ。
さらに衝撃だったのが、「治が好いてるっぽい」と言われるのではなく「付き合うと思ってた」と言われたことだ。前者ならばまだ分かる。実際に治は私を好いていて、私は治のことを何も思っていないのだから。だが後者のように言われてしまうと、私も異議を唱えざるを得ない。私は治のことを好きではなかったし、治と付き合う意思なんてこれっぽっちもなかったのだ。あれ、今何で過去形になったのだろう。一人考え込む私を置いて友達の話は進む。

「好きな人欲しいなら治でええやん! 去年あれだけ仲良かったんやし」
「逆に名前が治以上に仲良い男子なんておらんのとちゃう? 治が無理なら、名前には無理やろ」

仲良く頷き合う友人達を見て私は絶望した。まさに今回は治が無理なのだ。そもそも治は「一ヶ月以内に好きな人ができなかったら治と付き合う」というルールの発案者で、対象から真っ先に除外されてしまう人物なのだから。

ならば私には好きな人を作ることなんて無理だと、今私をよく知る友人二人から念を押されてしまった。二人の横で一人項垂れている私にこんな事情があるなんて、友人達は思ってもいないことだろう。相談してみようかとも思ったが、この様子だと治と付き合うことを推されて終わりそうなのでやめておいた。