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瞬く間に一週間が過ぎた。私に残された時間は三週間となる。治は気味悪いくらいに何もしてこなかった。いや、クラス替えをしてから私達の仲とはそんなものでこれが普通なのかもしれない。もはや治のことが何も分からない。

そもそも、治とは意地悪な男子である以前に根は人の心を汲める親切な人間であるはずだ。そんな奴が、一ヶ月以内に好きな人ができなかったら付き合えだなんて脅しのような文句を言うだろうか。――侑は言いそうだな。教室の真ん中で騒いでいる侑を見ながら私は密かに思った。治の双子だと思って接したら、意外と切れ味の鋭い部分があって驚いたのを覚えている。治はやっぱりいい奴なのだ。

そんな奴と付き合うのが、本当に嫌なことだろうか? 私は今一度考えてみた。言わずもがな治は女子に人気だし、クラスの中心にいてスポーツもできる。もし治が言った相手が他のミーハーな女子だったら、喜んで治と付き合う道を選んだことだろう。というか、その二択を突きつけられる前に告白をオーケーしている可能性すらある。私がそうできないのは、何故なのだろう。

何度考えてもやはり、答えは「片方だけ好きなのでは付き合っていると言えないから」という所に落ち着くのだった。勿論徐々に互いを知っていくカップルだっているし、最初から両想いではなかったカップルが両想いになった例も知っている。それでも好きではないのに付き合うというのは失礼なのではないかと、私は思ってしまうのだ。

いっそこんな偽善はやめて、素直に治の誘いを受けた方が楽になれるのだろうか。治はきっと、付き合ったら幸せにしてくれるに違いない。何なら私が隣人として治に接している間も結構楽しかった気がする。それも全部、治が私を好きだったからだろうか。そう思うと恥ずかしくなってくる。一体好きとは何なのだろう。治は私にどんな感情を抱いているのだろう。世間一般のカップル達は何を考えているのだろう。

「なぁ、『好き』って何やと思う?」
「ようわからんけど、相手のことずっと考えてたら好きなんとちゃう」

「いきなり苗字は何聞いとんねん」と隣の佐々木君は照れくさそうにしている。この際私と佐々木君の間にフラグが立ってしまったということはどうでもいい。私がこの一週間治のことばかりを考えていたこと、それが問題なのだ。リア充佐々木君の理論によれば私は治を好きなのではないか。新たに浮上した可能性に、私の体は固まったように動かなくなった。