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「で、どないなっとる?」

これまで何の気配も見せなかったくせに、今になって治は私に声をかけた。大方私の様子見というところだろう。私はといえば、これまで平然と話していた治の顔を碌に見られなくなっていた。これは治に告白されたからなのか、はたまた私が治のことを好きかもしれないからなのか、分かったものではない。

「別に……どうもいってへんよ。ぼちぼち」

何と答えたらいいのか分からなくて、私は曖昧な答えを返した。「好きな人ができた」と本人に宣言するにはまだあまりにも淡い感情だし、かといって「好きな人はいない」と胸を張って言えるほど私の感情はクリアではない。治は何を期待していたのか、目を見開いて私を見下ろした。

「できたんか、好きな奴……!」
「だからまだ分からへんって、決まったわけやないねん」

治は今一体どういう感情なのだろう。私に好きな人ができて焦っている? あの約束をしたことを後悔している? 私が必死に両手を前に出しながら治を見上げると、治はふと顔を緩めて笑った。

「ええねん、お前の好きなように恋愛しろや」

治はそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。残された私は一人、呆気に取られる。治は最初からあの脅迫のような約束で私と付き合う気はなかったのだ。恐らく一人の男として、好きな女に幸せな恋愛をしてほしいと思っているのだ。治とはそういう懐の広い奴だったと、私はよく知っている。私は治のそんな所が好きだったのだ。

「好き……」

私は思わず声に出していた。自分の中であまりにも自然に湧きあがった感情。友人としてかもしれないが、それを異性として置き換えることに何の違和感もなかった。私は治のことが好きだ。隣人として沢山話したからではなくて、この約束を通して治が好きな人にどう接する人であるか見えてしまったから。自覚したらあまりにも単純な感情で、私は思わず笑いそうになった。治も、佐々木君も、皆似たような感情を抱いて生活しているのだろうか。治の「好き」は、私なんかのものよりももっと深いものかもしれないけれど。

もうとうに治はいないというのに体の緊張が止まらない。これで付き合うなどということになったら私の体は保つのだろうか。気付いたら付き合うことまで考えている自分に呆れそうになる。でも私も好きになったということは、そういうことではないだろうか。治の定めた刻限が来るまであと二週間。私は初めて、その日を待ち遠しいと思っている。