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苗字さんとの食事から数日経った頃、唐突にメッセージアプリの通知が鳴った。差出人は菅原で、内容は自分のアドバイスが上手く行ったかを聞くものだった。影山はスマートフォンを持ち、ふと考える。菅原のアドバイスを実行したことは、結果として功を奏しているのだろうか。あの場では昼神が謝ったりもしていたし、影山が使いどころを間違えたことは確かだ。しかし、苗字さんとこうして仲良くなれたのも、菅原のアドバイスを実行したからにすぎない。影山は迷った末に、「ファンだと思ったらスポンサーの娘でした」と事実を書くことにした。

「は? まじかよ」
「それでお前好きですって言ったの?」
「まじか!笑」
「食事!? スポンサーの娘から仲良くなりたいって言われるってすげえな! お前その綱絶対離すなよ! 今度はお前から誘え!」

メッセージを交わした末に、影山はまた菅原からアドバイスを受けた。前回のアドバイスは、結果としてやらかしてしまった面もある。だが菅原のアドバイスはよく効くし、この間のように苗字さんと一緒にいることはいいと思った。折角、親しくなりましょうと言われているのだから。

「わかりました、誘ってみます」

影山は菅原にそう返し、苗字さんとのトーク画面を開いた。トークは食事の待ち合わせをする内容で終わっている。これは別にデートなどではないし、何も恥ずかしがることはない。影山は画面をフリックし、来週の日曜一緒に出掛けないかと誘った。


「綺麗ですね」

影山が選んだのは、海辺の公園だった。宮城出身の影山はいまだに東京湾に慣れない。苗字さんは東京湾など飽きるほど見ているかもしれないが、柵に身をもたれて海を眺めていた。公園に着いてから、苗字さんのような金持ちは公園になど来ないのかもしれないと思った。

「苗字さんは、あんまりこういう所来ないんスか」
「そうですね、この間のようなレストランでの会食の方が多いですね」

やはり苗字さんのような人は公園になど来ないらしい。会社を経営しているのは苗字さんではなく苗字さんの父だというのに、苗字さんまで会食に参加しなくてはならないとは金持ちも大変だ。苗字さんは海から影山へ視線を移すと、試すような口調で言った。

「ここはまるでデートみたい。デートのつもりで誘ってくれたんですか?」
「いや、違いますけど」
「そうでしたか」

苗字さんの声からは、悲しみも喜びも感じられない。苗字さんは今、安堵しているのだろうか。それとも残念がっているのだろうか。

「折角だから楽しみましょう、デート」

だからデートではないですと言おうとした影山は、苗字さんのからかうような表情を見てやめた。苗字さんはなんだか楽しそうだ。影山も苗字さんといるのは、結構楽しい。それならば今日がデートであるかどうかは、どうでもいい気がした。