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「は!? お前もう二回も苗字さんとデートしてんのかよ」
「デートじゃないです」

オフに何をしていたかと聞かれ、正直に苗字さんと会っていたと答えると先程のような反応を貰った。わかっていたこととはいえ、やはり影山と苗字さんは「選手とスポンサーとして仲良くなる」ではなく男女の仲として見られているらしい。年齢的に仕方がないのかもしれないが、苗字さんはそのつもりではないはずだ。

「苗字さんは俺と親しくなりたいみたいなことを言ってたので、そういうつもりじゃないと思います」
「絶対に違うね。ていうか苗字さん、親しくなりたいじゃなくて『好きになりたい』みたいなこと言ってただろ」

パーティー会場での片隅の話は、チームメイト全員に広まっていたらしい。果たしてそんなことを言われただろうかと影山は記憶を漁ってみる。何か苗字さんに難しいことを言われたことは覚えているものの、それが何を意味しているのかはいまいち理解しきれていなかった。苗字さんは、影山のことを好きになりたいと言っていたのか。

その日、練習終わりに影山は苗字さんにメッセージを送った。内容はシンプルに、「俺のこともう好きですか」というものだ。すぐに既読がついたが、苗字さんにしては珍しく返信がなかった。まあいいかと放置していると、風呂上りに通知が入っているのを見つけた。

「多分、好きです」

影山はすぐにキーボードを出すと「そうですか」と返信した。苗字さんからの返信は来なかった。


翌日、練習を終えて出ると苗字さんがいた。途端に畏まるチームメイトに軽く挨拶をしてから、苗字さんは影山を人がいない方へと引っ張った。一体何だろうと思っていると、苗字さんは苗字さんに到底似合わない路地裏で影山を見上げた。

「私のことを、好きになってください!」

苗字さんは切羽詰まった様子で、こんなに必死な苗字さんを見るのは初めてだった。影山は驚きながらも冷静に口を開く。

「それはスポンサーとしてのお願いですか」
「苗字名前としてのお願いです」

スポンサーとしてのお願いならば従う必要があるが、苗字さん個人のお願いに影山が従わなくてはならない道理はない。しかし、影山は苗字さんのことを好きになってみたいと思った。

「わかりました。俺も苗字さんのことを好きになってみたいと思います」
「お願いします!」

こうして、路地裏で苗字さんとの契約が交わされた。苗字さんをタクシー乗り場まで送って、影山は帰路に就いた。