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こうして、影山と苗字さんの仲は恋愛方向に向かうことになったと思う。とは言っても、影山はまるで何をしていいかわからなかった。学生時代に何度か女子と付き合ったことはあるが、その時のようなことをしても東京のお金持ちである苗字さんには呆れられてしまうだろう。

そんなことを考えていた時、苗字さんに食事に誘われた。店は苗字さんが決めてくれるようで、正直有難い。影山はチームメイトに連れて行かれる以外は、チェーンのカレー屋にしか行かないからだ。苗字さんに見合うだけの店など到底思いつかない。この間より少しはマシな服を着て、影山は店に向かった。通されたのはやはり個室で、苗字さんはこの店に何度も来たことがあるようだった。読めないメニューでの注文を終え、ウェイターが去ってから影山は口を開く。

「あの、好きになるためにはどうしたらいいですか」

影山は真剣だった。苗字さんの「好き」の種類が恋愛であることも、その気持ちが本物であることも全て承知済みだ。苗字さんは驚いた様子だったが、言葉を選んで答えてくれた。

「まずは相手を知るところからじゃないでしょうか。まあ、いきなりそういうことをしてから好きになるって人も、いますけど」

苗字さんが何故照れているのかはわからないが、とりあえず互いを知ることが必要らしい。影山が自己紹介をしようとすると、苗字さんは「知ってます」と言った。

「宮城県出身で、ポジションセッター、動物には嫌われがちなんですよね?」
「はい……」

影山は驚いたまま頷いた。出身地やポジションは検索すればすぐにわかるが、動物の話はあまりしていない。苗字さんは相当影山について調べたのだろうか。

「インタビュー記事とか、雑誌の取材とか、色々集めてみたんです。私は影山選手が好きですから」

それは恋愛としてですか、と言おうとしてやめた。今目の前にしている苗字さんは自分に恋をしていると、直感的に思ったのだ。

「俺のどこを、好きになってくれたんですか」

影山は一音一音慎重に発音した。苗字さんは影山に向かって微笑みかけると、楽しそうに口を開いた。

「少し抜けているところです」

抜けているとは、一体何が。影山がわからないでいると、その様子を見てまた苗字さんが笑った。

「俺は苗字さんのしっかりしたところが好きです」

お返しにそう言うと、苗字さんは驚いたような顔をした後「誤解させないでください」と俯いてしまった。何が誤解なのか、影山にはわからなかった。