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少し前に戦闘を控えていただけあり、明星を発ってからも第七師団は怒涛のスケジュールだった。来る日も来る日も戦闘に明け暮れ、私などは体を保たすので精一杯である。他の団員などは戦闘と宴会の毎日に喜びを隠さなかったし、団長は言わずもがなだ。つくづくヤバい団に来てしまったと思う。夜兎だからといって全員が強いわけではない。私のようなポンコツもいるのだ。
こうも戦闘の日々が続くと、訓練をしにトレーニングルームを使う気力もなかった。というより、毎日実践の連続でそれが鍛錬になってもいた。

その代わり私には新しい習慣が出来た。夕食を終え風呂にも入った夜更け、寝る前に船の頭部へと向かう。そこで眺める宇宙の景色は何よりも私を癒してくれた。そして、そこには必ず一人先客がいた。

「今日も来たんだね」
「だ、神威さん……」

「団長って誰」と呼ばれたあの日からそう呼ぶと睨まれるので神威さんと呼ぶことにしている。未だに慣れないその名前が私の口から発せられているのは不思議な心地がした。以前の私ならば神威さんがいるとわかった時点でもう二度とこの時間帯のこの場所には来なかっただろう。嫌われている私はどうせ冷たい目線を貰って終わりなのだから。

しかし神威さんは、私をこの場で好きにさせてくれた。神威さんもガラスの外の宇宙を眺めながら、私を好きなだけこの場で銀河鑑賞に浸らせてくれたのだ。その間神威さんの顔は恐ろしくて見られないし、沈黙は気まずくはあるのだが、同じ空間にいることを許してくれるのは素直に嬉しかった。

やがて数十分程の時間が経つと、神威さんは言うのだ。「もう帰りな」と。最近少しは苦手意識を解消してくれた、あるいは認めてくれたと思ってはいたが、まだまだ私は神威さんにとって嫌いな人間であるらしい。今日ももうそろそろ言われる時間帯だろうと私が窓から顔を離した頃、神威さんは唐突に口を開いた。

「この間のお前を見てたら故郷での俺を思い出した」
「え……あ、はい」

神威さんは何でそんなことを私に告げるのだろう。何もわからなくて、私はまるで気の抜けた返事をした。後から考えてみれば本当に話を聞いているのかと詰め寄られても仕方ない返事だが、何しろ私は嫌われているので余計な刺激をしては危ない。
神威さんは窓の外から目線を外すと下を向いて可笑しいように笑った。

「人の過去に無闇に立ち入ってこないところは褒めてあげる」

これは気を悪くさせていない、むしろ言葉通りなら褒められているのだろうか。

「ありがとうございます……」

私がそう言うと、神威さんは邪魔くさそうに「ほら帰った帰った」と言うので余計に神威さんのことがわからなくなった。