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その日の夜、私は上手く寝付けなかった。生まれ故郷で戦ったという実感が今になって湧いているのだろうか。だとしてももう遅い。当たり前のように戦いは第七師団の圧勝に終わり、山程の夕食を食べて今は各自部屋に戻ったところだった。日課の訓練は今日はもう休みでいいだろう。疲れた体にそう思ったものの、今日団長に褒められたことを思い出してまた体が疼く。散々に迷った末、もう動きそうにもない体に強制的に今日の訓練は休みとすることにした。
早々にベッドに潜ってみるが、興奮の冷めやらない体ではなかなか眠れない。そうでなくともまだ眠るには早い時間だ。私はベッドから起き上がると、足の赴くままに船の中を歩いた。

食堂からは今日の勝利を祝い飲み食べる声が聞こえてくる。夕食であれだけ食べたのにまだ入るのだろうか。弱虫扱いの私は宴会に参加したことはないが、今後も絶対に参加したくないと思っている。食堂の喧騒から遠ざかり、私がやって来たのは船の頭部だった。勿論海に浮かぶ船のように屋根のないデッキになっているわけではないが、ここからは宇宙の様子がよく見える。昼も夜も感じさせないそこは私のお気に入りだった。

そこでしばらく銀河でも眺めようとした私は奥の窓枠に座る人影を見つけ、足を止める。団長だ。しかも一人で黄昏ている風であるのだから、これは邪魔をしてはいけない。そっと引き返そうとした時、「入ってきなよ」と声がした。振り返ると、団長がこちらを向いていた。

「さっきからバレバレだよ」
「すみません……」

言われた通り私はこの空間へと足を進めてゆく。三方をガラスに囲まれたこの部屋にいると、まるで宇宙に浮かんでいるような気分になる。

「どうだった? 今日の復讐は」

突然話しかけられて私は竦み上がった。そもそも、私のことを嫌っている団長が私に話しかけるとは思わなかったのだ。だからと言って無視するわけにはいかないので、私は正直に答える。

「……気持ちよかった、です」

すると団長は声を出して笑った。流石に調子に乗りすぎただろうか。心配する私をよそに、団長は笑顔をこちらへ向ける。

「最高だよ。お前面白いね。そこで綺麗事言わないんだ。だから俺は――」

そこまで言って、団長はハッと我に返ったように表情を無にした。今の瞬間に一体何が起こったのだろう。困惑する私をよそに、団長はまた顔を窓へ向けた。

「……復讐できてよかったんじゃない。もう帰れ」
「あ、はい」

今の団長の豹変は何だったのだろう。私は自室への道を歩きながら考える。それにしても、と私は口元が緩むのを感じた。団長があんな表情を見せてくれたのは、今回が初めてだ。嫌われているのはわかっているのに、団長の笑顔を見られたことが嬉しかった。