▼ 12 ▼

怪我をしたといってもそこは夜兎である。私の右上半身は焼かれたらしいが、内臓まで響いてなかったのが幸いして二日ほどで完治するだろうと言われた。こんな時には便利な一族に生まれたものだと思う。

第七師団の救護医に塗り薬を塗布されると、私は見た目だけ大げさに包帯を巻かれた。腕など三角巾を着けているほどだ。どう考えても私の怪我はそこまで酷いものではないのだが、まあ怪我人として扱ってもらえるならば良しとする。恐らくは今後も第七師団は戦闘のスケジュールが詰まっているだろうが、そこで私は戦いに駆り出されないことだろう。のぼせ上がっていた頭を冷やすという意味でも私は有難く見学に回るとしよう。

問題は、一週間訓練も実践も出来ないことだった。日課となっている訓練は日々の戦闘があることで免除しているのだ。だが今の状況ではどちらも出来そうもない。これは相当体が鈍ってしまうだろうな、と思いながら私は船の頭部へと向かった。

いつもの宇宙が見える場所、神威さんのいる場所へ行くために。この体になったとしても私はもう一つの日課を手放すつもりはなかった。

入った瞬間気を抜いているからそうなると怒られるのかと思いきやそうではなく、神威さんはただ窓の外を見ていた。私も神威さんと反対側の窓に身体を寄せて宇宙を見る。いつもと違うのは、私の体にグルグルに包帯が巻かれていることだった。それが元から気まずいこの沈黙をより重くしていた。

今日はいつもより早く「帰りな」と言われるのだろうかと私が考えていた頃、唐突に神威さんが口を開いた。

「……怪我の具合は」
「えっと、二日もすれば治るみたいです。これは大げさで」

包帯を指差しながらそう言うと、一度もこちらを見ないまま神威さんは「あっそ」と言った。元から心配してもらえるとは思っていなかったが、そう言われるとなんだか寂しいものがある。

今日はたまたま怪我をしていたからこの会話なだけで、これはいつもの「帰りな」の代わりなのだろうか。つまり、神威さんはもう一人になりたい頃だと。

そう解釈した私は音を立てないようにそっと部屋の出口へ向かった。一歩踏み出すごとに怪我をした部分の体が痛む。これは神威さんにバレバレだろうな、と思いながらも今の私に足音を立てずに歩くことは不可能だった。気遣いなんかしていると知られたら余計怒られてしまうだろうか。最近一緒に過ごす時間が多いせいで、自分が神威さんに嫌われていることを忘れそうになる。

思わず苦笑いをした時、私の首筋に何かが当たるのを感じた。それが俯いて私のうなじに額を当てる神威さんだと気付いたのは、私の肌にさらりとした神威さんの髪が当たったからだった。