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「振り向くな」

思わず振り向こうとした私はその一言によってまた前を向く。神威さんが話す度に私の背中に息がかかって、本当に神威さんはそこにいるのだと実感した。

一面を宇宙に囲まれた中で、私と神威さんだけがそこにいる。息遣いさえ聞こえてしまいそうな距離で私達は何故こんなことをやっているのだろうと思った。私は今日の任務に失敗した下っ端で、神威さんは私のことが嫌いなはずなのに。「何で」私が思うと同時に神威さんが声に出していた。

「何でお前はまた俺に護るものを増やさせようとするんだよ……もう大事なものなんて持ちたくないんだよ。俺はこんな感情、いらないのに」

その声は酷く弱々しく、到底神威さんの発したものだとは信じられなかった。だが今私の後ろで私の背中にもたれかかっているのは紛れもなく神威さんで、この部屋に声を発する者は神威さん以外いないのだ。

私はどうしていいのかわからなかったが、最初に「振り向くな」と言われた以上どうすることもできなかった。もし神威さんにそう言われていなかったら私はどうしたのだろうか。振り返って、私にもたれかかる神威さんを抱きしめただろうか。それとも神威さんの表情を見て今の言葉の意味を確かめただろうか。どちらもきっと、神威さんの気分を害してしまう。だから私にできることは黙って神威さんにもたれかかられ、神威さんの言葉を待つことだけなのだ。

しばらくそうしていると、不意に神威さんの額が私の背中から離れるのを感じた。次は、神威さんは、どうするつもりなのだろうか。緊張する私の背中を神威さんの左手が押す。

「……もう帰りな」

いつもと変わらない一言を発する声は酷く動揺していた。その意味がわからないまま、私は言われた通りにただ帰る。自分の部屋で、何も考えずただ眠りに就くために。

今日は色々な事がありすぎた。ふらふらと自室のベッドに倒れ込むと、私はあっという間に眠りに落ちた。



翌日の朝、私は戦場へと出て行く団員を見守っていた。昨日あんな事があったからか、皆の表情はいつもより引き締まって見える。その中でも神威さんだけは戦いを前にして興奮した表情をしていた。昨日の出来事など、まるでなかったかのように。

「じゃあお前はここで留守番頼んだよ」
「あ、はい」

一番怪我の酷い私にそう言うと神威さんは戦場へ駆けて行った。その背中を団員が追う。見る場所が変わっただけで、少し前までは最後尾から見ていたはずの風景だった。

「私も成長したんだなぁ……」

そんなことを呟いていたと知られたら、また神威さんに怒られてしまうだろうか。