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その日の夜、実際に戦った団員達による宴のような夕食に参加するのは気が引けて、私は誰もいなくなった食堂にて一人定食を食べていた。といっても夜兎の集まる第七師団専属の食堂のメニューである。「定食」発祥とされる地球のそれとは量において全く異なるものとなっているだろう。
私が左手を使って不慣れに食事をしていると、ちょうど書類仕事が終わったところなのか疲れた顔をした副団長が食堂に入ってきた。第七師団は団長があんな人なので、本来団長がするような書類仕事は全て副団長がやっていると聞いている。夜遅くまでご苦労なことだ。

二人しかいない食堂で離れたテーブルを使うのも気が引けたのか、副団長は私の斜め向かいに座った。そして口を開くと、蕎麦を食べるより先に私に尋ねた。

「お前と団長、何かあっただろ」
「何か……」

思い当たるのは昨晩のことである。あの日神威さんは聞いたこともない声色をして、額を私の背中に預けていた。弱々しく誰かに寄りかかる神威さんなど私はあの日以外一度も見たことがない。恐らくそれは副団長も同じだろう。ぼうっと副団長を見ていると、副団長は蕎麦を食べながら「わかりやすいんだよ、お前ら」と言った。

私には全くわからなかったあの言葉の意味を、副団長ならわかるのかもしれない。私はあの夜あった出来事を、正確には神威さんが私にもたれかかっていたことは飛ばして神威さんに言われた言葉だけ、副団長に伝えた。

「結局神威さんは私に何を伝えたかったんでしょう……」

一日経ってもその答えは出ない。神威さんの言葉はあまりにも抽象的で、それでいて遠回しで、体に加えて頭もポンコツの私には理解できない。そっと副団長を見ると、副団長は事もなく言った。

「護るっつーのは団長なりのアイラブユーだよ、多分」
「ま、護る?」
「そうだよ、俺に護るものなんか増やさせるなって言ったんだろ?」

正確には言い方は少し違うが、確かにそのようなことを言った。だがそれがどうしてアイラブユーになるのだろうか。私がまるで何も理解していないのを察したのか、副団長は呆れたように続けた。気付けば副団長の丼は汁だけになっていた。

「いいか、団長はな、失うのが怖いから大切なものなんか欲しくねェんだよ。失わないためには護らなきゃいけないだろ。だから護らなきゃいけないお前が憎いのさ」
「えっ、護るって私のことだったんですか」
「そこからかよ……」

副団長は心底呆れたという顔をして丼の汁を飲み干した。

「ま、なるようになるだろ」

それだけ言って食堂を出て行ってしまった副団長の席を私は呆然と眺めていた。難解だった神威さんの言葉が、今少しだけ解読できたような気がする。だけれどその正解を与えられた今、より神威さんのことがわからなくなっていた。