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待ちきれないといった様子で次々と団員が飛び出して行く。その後ろ姿を見ながら、私も第七師団の船を降りた。

久々の戦闘だ。勿論団員の足を引っ張り、みんなから嫌われてゆくのは憂鬱ではあるが、ほんの少しだけ心踊る気持ちもある。トレーニングルームで一生懸命練習した成果を出す時が来たのではないかと。

練習でいくら頑張ろうと、その力を試せるのは本番しかない。団長や副団長のようにはいかなくとも、せめて自分一人で戦えるくらいには。

私は戦場の中へ駆け出した。数では劣っているというのに、戦闘は既に第七師団が押している。ここからどこに参加すればいいのだろうと考えたところで、一度負傷して倒れていた敵兵が立ち上がるのが見えた。
そこまで強くなさそうな相手。しかも手負いの状態。今の私にはまさに彼がぴったりだ。

私は他の団員に襲いかかろうとしている彼に走り出すと、一番得意な蹴りを入れた。散々トレーニングルームで練習しただけあり、私の蹴りは彼の腹に綺麗に決まった。襲われかけていた団員は別にそのままでも対処できただろうが、というか獲物を取られて残念そうにもしているが、この敵は私が相手をさせてほしい。

一度傷を負い夜兎族の蹴りを食らったにも関わらず彼は体勢を立て直し、こちらに向かった。私も負けじと走り出す。

そこからはほぼ互角だった。夜兎族と手負いの兵士が互角など恥でしかないのだが、私としては必死だ。何としてもこの相手を倒してみたい。訓練の成果を出したい。夜兎として認められたい。――団長に、見直してもらいたい。

気付けば私は戦いに夢中になっていた。周りの音も聞こえず、戦闘相手以外視界には入らない。緊張もあるものの、心の奥ではこの状況に興奮していた。戦闘狂と呼ばれる団長や団員の気持ちが、少しだけわかったような気がした。

戦いが長引けば負傷のない私が有利なのは明らかである。あとひと押し、という時、不意にこちらに武器が向くのが見えた。それは今まで倒されたフリをして地に伏せていた敵だった。私は目の前の相手に集中するあまり他の敵に気付けなかったのだ。
やられる。そう思った時、目の前で爆発音がして辺りは砂塵に包まれた。手で顔を覆いながらそっと目を凝らすと、その中心に立っているのは団長だった。

「団長……」

思わず声が漏れる。団長はこちらを向きながら、またあの冷たい表情で言った。

「強くなったとでも思ってる? 思い上がりもいいところだね」

ぐうの音も出ないとはまさにこのことだろう。私は沢山訓練をして強くなった気でいた。しかし結果はこのざまだ。

「弱い奴はいらないよ」

そう言って背中を向けて船に乗り込んだ団長が最後から二番目だった。辺りに立っているのはもう私しかいなくて、私はまた一番最後に船に乗り込む。団長が合図をして船は離陸する。いつもと同じ、惨めな終わりだった。