▼ 4 ▼

「弱い奴はいらないよ」

団長の言葉が頭を巡る。それは遠回しな解雇宣言だろうか。いや、解雇されているなら私はとうに宇宙に放り出されているはずだ。

あれから私はトレーニングをする気にもなれず、部屋に閉じこもっていた。幸い怪我はなかったが団長がいなければどうなっていたかわからない。最悪ここにいない可能性だってあるのだ。団長からしてみれば、面倒な部下がいなくなった方が楽なのかもしれないけれど。

じゃあ、何故団長は私を助けてくれたのだろう。ふと今まで感じなかった疑問が思い浮かぶ。団長はあまり人を助けるタイプではない。まず滅多にないことだが、副団長が敵の一斉攻撃を受けて困っていた時でさえ「頑張れ阿伏兎ー」と笑っていた。その敵は勿論全員副団長が蹴散らした。他の団員達が苦戦している時も団長は強そうな敵を探すことに夢中で助けたりはしない。

ならば何故、と疑念は深まるが、あまりにも低レベルな戦いに見ていられなくなったのだろうと自分で答えをつけた。団長からすればあの戦いなどキャットファイトだろう。早く船で離脱したい、けれど部下が一人まだ戦っている、ならば自分がそれを終わらせればいい。いかにも団長の考えそうなことだ。見捨てられて置いて行かれなくてよかった、と私は食堂へ向かった。食事時は過ぎてしまったけれどご飯は出してもらえるだろうか。そっと食堂を覗くと、誰もいないと思っていたそこには一人、副団長がいた。

「お前もメシか?」
「あ、はい……」

何の因果か、私は副団長と並んで二人でご飯を食べている。今は深夜だから夜食というところだろうか。静まり返った食堂に二人無言でいるのも居心地が悪くて話題を探そうとしていた時、それすら副団長が引き受けてくれた。

「お前、今日は頑張ってたな」

私は思わず目を見開いた。まさか副団長直々に、そんなお褒めの言葉を頂けると思っていなかったのだ。

「最後は団長に助けてもらっちゃいましたけどね……」

私がうどんを啜りながらそう言うと、「いんや、訓練の成果は出てたぜ?」と副団長は笑った。

「知ってるんですか?」
「団長から聞いてな」

副団長がスプーンを口に運びながら喋る様子を、私は目を丸くして見ていた。

「トレーニングルーム使って訓練なんて偉いじゃねェの。これからも頑張れよ」

私は感動で泣きそうになりながらも大きく頷いた。その動きに合わせて胃の中の食べ物が揺れる。

「……はいっ!」

その勢いでうどんを完食すると、私は副団長に一言告げて食堂を後にした。今は深夜だからこのまま寝るが、明日はきっとトレーニングルームへ行こう。

早足で食堂を出て行った私の後で、副団長がこんなことを呟いていたなど私は知らない。

「足手まといだとわかってる部下を置いてけぼりにせずわざわざ団長が助ける、ねぇ……」

阿伏兎もまた謎に思っているのは確かだが、直接尋ねないのは自分の命が惜しいからだろう。