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ここ最近任務が入っていなかった反動なのか、昨日任務を終えたばかりでも明後日また任務があると告げられた。次の戦闘に湧き立つ団員の横を通り抜け、私は一人トレーニングルームへと向かった。たった一日や二日訓練したところで何も変わらないかもしれない。でも、私はもう自惚れてはいない。

団長の声が頭に蘇る。「強くなったとでも思ってる?」その言葉は私が自分の力を過信しすぎていることを示唆していた、と思う。団長なのでただの嫌味の可能性もあるけれど。

とにかく自分の実力を思い知った私は、今の自分に出来る戦闘の仕方を探して練習すればいい。団長や他の団員を追いかけようとするのではなく、私に合った戦い方で。
数時間の訓練を終えてトレーニングルームを出ると、ちょうど向かいの部屋から出てきた団長と目が合った。何と言ったらいいかわからず目を白黒させる私に、団長は一言告げた。

「絶対に認めないから」

私はその場に立ち尽くしたまま去ってゆく団長の後ろ姿を見ていた。私がどれほど頑張っても団長は認めない。それほどに私は嫌われているのだと、改めて思い知った。


訓練に明け暮れている内に、戦いの日はすぐにやってきた。団員達が雄叫びを向けて敵へ向かう背中を私も追いかける。前のように勢いで突っ走ったりはしない。けれど、私も私のやってきたことをきちんと出せるように。

前のような無茶な一対一はやめ、私は見るからに弱っている敵や既に他の団員と戦っている敵への奇襲に徹した。団員達からは邪魔くさい、あるいは戦士の風上にも置けないと思われているかもしれないが今の私にはこれしかできない。それでも第七師団に置かれている以上、役に立ちたい。

みんなが興味が失せれば勝手に切り上げる中、最後まで私はまだ戦う余力のある敵が潜んでいないか目を凝らした。今日も第七師団の圧勝だったが、念には念を、だ。
離陸を邪魔しそうな敵はいないと判断して船に戻ると、今日は船の入り口のど真ん中に団長がいた。その顔に表情はなく、何を考えているのかはわからない。だが私は嫌われているのだから良い感情を持たれてはいないだろう。

「すみません団長、いつも待たせて」
「団長って誰」

ようやく絞り出した私の声を遮るように団長は言った。遂に私と会話することも嫌なのだろうか。呆気に取られて団長を見つめる私を、団長はただ見下ろしている。

「だから団長って誰」
「えっと……神威さん、です」

初めて声に出すはずの言葉は不思議と私の舌によく馴染んだ。団長がどんな答えを求めているのかはわからないが、今私に出せるのはこれしかない。
すると団長は私に背を向けて中へ入り、いつものように離陸の合図をした。

「……ん。入んな」
「はい……」

一体今のは何だったのだろう。私は違和感を抱きながら、また第七師団の一番最後に船へ足を踏み入れた。