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本来春雨の他の団では戦闘の予定が入り次第ミーティングを行い、戦場での作戦を練ったりするらしいのだが勿論第七師団にそんな習慣はない。ただ副団長から何日後にどこの星、とまるで待ち合わせのように言われ、時には敵勢力の数も知らないまま私達は戦場に降りる。だがそれに不満のある者は私以外いないようで、皆目の前の戦闘に夢中な様子だ。この前まで戦闘がなかった分ここから先はスケジュールが詰まっているはずだ。食堂に顔を出した副団長に、これはきっと次の任務が決まったのだろうと私はぼんやり考えていた。そして副団長の口が開いた瞬間、私の頭から全ての事が消えた。

「明日、明星で現地勢力と」

途端に湧き立つ団員達をまるで別の世界の出来事のように眺めていた。今の私には現実感が足りないのかもしれない。だって信じられない。明日の私は生まれ故郷に行き、そこで戦うなど。

明星は私が生まれた星であり、迫害を受けた星であり、追い出された星だった。幼かった私の記憶にもはっきりと残る残虐な記憶の数々。私が孤児だったことだって偶然とは思えない。両親だってきっと明星の人間に殺されたのだ。

私は不思議と食欲が失せて、静かに席を立った。残飯を食堂に返すとそのまま部屋へ戻る。私のやっていることはおかしい。元々食後にはトレーニングルームへ行くつもりであったし、明日奴等と直接戦うのならば余計に訓練に身が入りそうなものなのに。現に体は疼いているのに、私は一向に部屋から出ようとしない。

会いたくないのだ。今は誰も。私のことを嘲笑う団員にも、優しい副団長にも、私を嫌う団長にも。こんな調子で明日はどうするのだろう。奴等を目の前にしたら私はどうなるのだろう。何もわからないまま私はただ布団に包まって眠った。

その日の晩、夢を見た。私が迫害を受けなかった夢。両親が生きている夢。家族三人で平和に暮らしている夢。夢の中で私は、何かがおかしいと気付き始めていた。頭の奥の理性がどうにか気付かないでくれと懇願する。だけれど私にそんな幸せの記憶はない。夜兎として生まれた私に、平凡な日々はまるで体に合わなかったのだ。やがて夢の中の私はこれが夢だと気付き、諦めた気持ちで両親の手を離した。夢ならば気の赴くがまま好きなことをすればいいのに、もっと両親に甘えればいいのに、何故私はそれをしないのだろう。そう考えたところで、私は親への甘え方を知らなかったのだったと思い出した。