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私は震える足で三人の前に向かった。三人はこちらに抵抗する気力はないけれども意識はあるといった様子で、団長が丁度いい塩梅で倒してくれたのがわかる。目の前で呻いている三人に、私を迫害してきた明星の奴等の顔が重なった。今目の前にいる三人は奴等ではない。直接私を迫害してきたわけではない。復讐は何にもならない。私の心に綺麗事が渦巻いて行く。私の視界がぐらりと揺れる。斜め後ろで、団長が私の顔を見ているのがわかった。
それでも、私はまた一歩前に出た。そして右から順番に高く、高く蹴り上げた。

「随分とやったね」

団長が後ろで口笛を吹いたのが聞こえる。けれども私はこんなもので終わらせる気はない。蹴り、殴り、転がして私はとにかく三人を痛めつけた。この三人に罪はない。なんて言うつもりはない。この三人の罪は、私を迫害した奴等と同じ星に生まれたことだ。

気が済むまで三人を攻撃し、息を整えていると、肩に団長の手が載った。

「お疲れ。訓練の成果ちょっとは出たんじゃない」

団長は後ろでずっと見ていてくれたのだ。そのことも不思議だったが、私にはもう一つ解せないことがあった。先日トレーニングルームから出てきた私に、団長は「絶対に認めないから」と言った。それは私の努力を認めないということではなかったのだろうか。だが現在、団長はあっさりと私のことを認めてしまっている。あれは一体何だったのだろう。再び戦場のど真ん中へ駆けて行く団長の後ろ姿を見ながら首を傾げた。

すると副団長に蹴られた敵の体がこちらへ飛んできて、私はやっとのところで避けた。自分の生まれ星のことや団長のことですっかり忘れていたがここは戦場なのだ。私はもう明星の住人ではなく、第七師団の団員である。

一つ深呼吸をすると、私はまた自分でも戦えそうな敵を探して走り出した。先程団長に訓練の成果を認めてもらったからだろうか。不思議と心は軽く、私はこの戦いに対して前向きな気持ちになっていた。あれだけ嫌だった戦闘に興奮しているなんて少し前の自分が聞いたら驚くことだろう。それも、相手は自分の生まれ故郷の部隊だ。それなのに戦場を駆ける足取りは軽く、自分から敵を探すまでしている。戦闘に心を踊らせる団長や団員の気持ちが、今ほんの少しだけわかったような気がした。