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 モテない私はともかく、侑が長い間彼女ができないというのは珍しかった。例外があるとすれば大阪へ引っ越してきた頃だが、当時はチームや新生活に慣れるためにあえてセーブしていたのかもしれない。侑にSNSや実生活でダル絡みされる毎日を思うと、侑に彼女ができてほしいような、この日々が続いてほしいような複雑な気持ちになる。

「ていうか私のアカウントに公式垢でいいねすんなや。彼女疑惑出たらどうすんねん」
「そしたら実際に彼女ですってお前の学生証の証明写真投稿したるわ」
「よりによって一番映り悪いやつ選ぶなや!」

 てっきり侑は「お前なんかが俺の彼女だと思われるわけないやろ」と言うと思っていたので私は拍子抜けする。学生証の証明写真という最悪のチョイスに突っ込んだものの、突っ込みたいことは他にもある。だが私は触れることができない。前は恋愛話など平気でできたのに、どうして気まずいと思ってしまうようになったのだろう。

「で、日曜来るんやな?」
「い、行くで」

 今週の日曜は侑が所属するブラックジャッカルのホームグラウンドにて試合が開催される。私は以前侑から「暇してんやから来いや」とチケットを渡されていた。実は最近の私はそれほど暇でもなかったのだが、「まあ暇やし行ったるわ」と無理に予定を空けた。暇潰しに私を使う侑にやり返してやろうと思ったはずが、わざわざ暇を作って観に行っている。また侑にしてやられた気分だ。

「推しメン見逃さんようにな」
「推しメンって誰や」
「勿論俺や」

 侑を無視し、私は脳内でファッションショーを開く。侑などほぼ毎日会っているというのに、服に悩むのは会場が大きなアリーナだからだろうか。

 日曜、私は初めて入るアリーナにてチケットを片手に右往左往していた。一人で観戦するより誰か友達を誘えばよかった。だがそうすると「このミヤアツム?選手が好きなん?」という流れになってしまうので、やはり一人で道に迷うほかないのだ。

 開始時間直前に席に着くと、選手の紹介が始まった。ホームグラウンドだけあり、ブラックジャッカルの選手の紹介がメインだ。侑が登場すると、アリーナは女性の黄色い歓声で埋まった。侑はモテるのだという当たり前のことを私はまたしても実感させられた。当の本人は女性の歓声はどうでもいいようで、笑いを取れなかったことを悔しがっているようだった。後で本人に会ったらこのネタで弄ってやろう。なんてことを考えているのは私だけだろう。

 バレーの知識はうっすらある。稲荷崎はバレーの強豪校だったし、治君が所属しているとあり試合を何回か観に行ったことがある。それでも侑達プロの試合には圧倒された。私は知らずの間に、チケットを握りしめていた。