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お互いに恋人がいないからなのか、私達はまた越してきたばかりの頃のように連絡を取り合うようになった。連絡を取る、と言っても数秒歩いて相手の家に行った方が早いので、私達の主な交流手段は夕食のおかずを分け合うか帰り道で一緒になって歩くかである。侑は別の女の子と付き合っている間の愚痴を鬼のように聞かせてくれた。私が見た侑の彼女は凄まじい美人だと思ったが、別れてからこれだけ愚痴を言う男とは絶対に付き合いたくないと思った。侑も私には査定されたくはないだろうが。彼女がいない間の暇潰しに使われているのだと思うと、少し腹立たしい。でも侑といるのは楽しいので、何だかんだで一緒にいてしまう。これは私達が付き合うようなことがあったら最悪の組み合わせだなと思った。
「俺としては娘を嫁に出す父親の気分やねん、手塩にかけた名前を知らん男にとられてもうて」
「初めて話したの卒業式の時やろが」
侑は私が先輩と付き合ったことに対する恨み言を延々と繰り返した。仮に私のことが好きなら先輩と付き合う前に正攻法で告白して付き合えばいいのに、そうしないのは私のことを都合のいい女友達として見下しているからなのだろう。私のくせに生意気に彼氏を作りやがって、侑が思っているのはそんなところだ。
「言っとくけど私は絶対侑とセフレにはならんからな」
「何やねんいきなり」
「侑、女を中途半端にたぶらかすの得意やろ」
私がそう言うと、侑は「まあせやけど」と言って大根を口にした。自覚があるところが最悪だと思う。このまま侑のいいように扱われていては、セックスの流れに持ち込まれる日も遠くない。かといって私は他に彼氏を作ろうとしないし、侑から遠ざかる気はないのだけど。
「まあ、でもお前はセフレにはせんよ。これだけは言える」
「グラマーじゃなくて悪かったな」
私は侑が連れていた女の子を思い出しながら言った。どうせ侑は「妹みたいな存在」とか都合のいいことを言いだすのだろう。
「ええか? 私は妹やない、お姉さんや」
「は? 何言っとんねん。お姉さん要素ゼロやろが」
私が「何やと!?」と反応すると、珍しく侑はそれに乗っからずに小難しい表情で箸を置いた。
「セフレにならなかったら、何になってくれるん?」
侑がギャグでもない、特に意味があるわけでもないことを言うのは珍しかった。私は少し迷ってから、「理解のある女友達?」と言う。侑は少し笑ってから、「義理の姉とは言わんのやな」と言った。
「義理の姉って何やねん」
まさか私と侑の親同士が再婚するとかそういうことだろうか。全く理解できない様子の私を見て、侑は安心したように笑った。
「治と結婚して義理の兄妹になる、とはもう言わんのやなって」
「ああ、そっち……」
私は久しぶりに治君のことを思い出した。しかし彼が思い出の人であることに変わりはなかった。
「言わんなぁ」
「そか、安心した」
何に安心したのか、と聞こうとしたが侑はそれを遮るようにグラスにハイボールを注いで飲んでいた。私は侑が泥酔したら侑を背負って部屋まで連れて行くのは面倒だな、と思いながらサワーを飲んだ。