▼ 11 ▼


「で、どやった?」

 試合があった日の次の晩、侑はまたしても私の家に夕飯を貰いに来ていた。タッパーに詰めるのも面倒くさいのでそのままテーブルに出しながら、私は「凄かった」と答えた。

「せやろせやろ。侑君の凄さと人気実感したやろ」
「人気はジャカ助と木兎さんの方が上だった気がするけど」
「それは言うなや!」

 やはりコンプレックスに思っているのか、侑は途端に声を荒げる。私は笑いながらシチューをご飯にかけた。

「でも、ちゃんと侑のこと見てたで」
「おん」

 言ってからどうしてか気まずくなる。常に相手をコケにし、ボケと突っ込みを繰り返していたのが私達だというのに、今のカップルのような会話は何だろう。私は慌てて侑の持っている茶碗に目をやる。

「なんだかそのお椀侑専用みたいになってもうたな、引っ越しの時金欠なのに無理して二セット買ったんやった」
「一緒に住むか?」

 私の空元気を全て無視して、侑はとんでもないことを言う。思わず侑の顔を見ると、侑は窺うような表情でこちらを見ていた。

「何がどうしてそうなんねん」
「いや、俺らしょっちゅう飯一緒に食うし、家の距離近いし、一緒に住んだ方が家賃も安上がりでええんやないかなーって」

 言いたいことは山ほどある。でもどれも口に出したら私と侑の関係性を決定的に変えてしまいそうで、私は怖くて口に出せなかった。

「一緒に住んどる女がおったら、侑もう彼女作れへんのやで」
「おん。別にええわ」

 それが彼女はいらないという意味なのか、はたまた私が彼女になるという意味なのか、私には見極めがつかない。言葉に詰まる私を見て、侑は唐突に話を終了した。

「なんてな。本気やないから安心したってええで」
「なっ……ホンマ何やねんお前!」

 私はお椀を投げつけたくなる衝動にすら駆られる。私の葛藤と動揺をどうしてくれるのだろう。女慣れしている男はこうして恋愛初心者をからかうからいけない。怒る私を見て、「名前があんまりにも可哀相やからやめたる」と侑は言った。それはからかうのをやめるという意味だろうか。それとも、同棲をするのをやめるという意味だろうか。

「次そない嘘ついたら許さへんからな!」
「おーおー」

 普段通り侑は皿を洗って自室へと帰った。侑は至って変わらないというのに、私ばかり意識してしまっているのが悔しい。侑の手のひらの上で転がされている気分だ。それにしても、侑は人気選手となってもどうして引っ越さないのだろう。わざわざチャットで尋ねることでもないと思ったが、私は気になって侑にメッセージを送った。すると「気分」という何とも簡潔な答えが返ってきた。私は侑に何を期待していたのだろう。スマートフォンを閉じると私は眠りに就いた。