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 バイトを終えて駅から出ると、侑と鉢合わせた。アパートまでの帰り道を並んで歩くのはいつものことなのに、気まずさを感じてしまう。その原因は治君が大阪に来たことであると、私達は理解していた。

 しばらくの沈黙の後、侑は話し出す。

「治と会ったんか」
「ま、まあ」
「ほーん。告白すればええやん」

 侑は至って簡単に言う。その中にどんな感情が込められているのか、私は想像もつかなかった。

「そんな簡単に言わんといて。私勇気ないし、好きやって言っても何年も前の話やし。ま、その三年前は侑に邪魔されてもうたけどな」
「今回は邪魔せえへんよ」

 てっきりいつもの憎まれ口が返ってくると思っていた私は拍子抜けして侑を見た。侑は、応援してくれるのか。嬉しいはずなのに、どこか落胆している自分がいる。卒業式の日はあれだけ侑に怒りが湧いたというのに、どうして侑に邪魔してほしいと思ってしまうのだろう。

「……何でなん?」
「何でって、お前ずっと治が好きやったんやろ。そろそろ幸せになってくれば」

 あまりにも他人事として語られる私の幸せに、私は何故だか悲しくなった。私はあの宮侑に幸せを願われている立場だというのに、苦しくて仕方ないのだ。

「粉砕覚悟で治に告白したらええやん。情けない告白グランプリ優勝してこいや」

 侑の顔は見えないから、侑がどんな表情をしているのかはわからない。私はまるで告白を決めた人らしくない顔つきで、夜の街に息を吐いた。

「せやね。私、治君に告白した方がええのかもしれんね」
「せやで。治にちゃんと幸せにしてもらえ」

 私達はアパートに着き、それぞれの部屋の前で解散した。今日も夕飯はなかったが、侑にたかろうという気にはなれなかった。私はまたカップラーメンを食べて、治君にメッセージを入れた。できれば近い日にちで、会える時はありますか。仕事をしていたのか、治君から返信が来たのは私が風呂に入った後だった。「金曜の七時からならええで」私は了承する旨のスタンプを送り、布団の中で目を閉じる。私が治君に告白したら、治君と私の仲は変わるだろう。私と侑の仲も、変わることだろう。果たしてそれは私が望んでいることなのだろうか。どこまでが過去の私で、今の私なのだろうか。わからないまま治君に会うのは失礼なのかもしれない。それでも、治君に会ったら何か、わかる気がするのだ。私は問題を治君に丸投げしたまま約束の日を待った。