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 五月だというのに冷える夜、アパートの廊下に宮侑が立っていた。私は一度素通りするが、郵便受けに何か入っていたことを思い出してもう一度戻る。そしてまた素通りして自室のドアを開けようとした時、「声かけろや!」と宮侑に叫ばれた。

「こんばんは」
「いや、俺鍵忘れてしもて」
「ふーん」

 そのまま自室に入ろうとする私の腕を宮侑が掴む。

「俺部屋入れないんやぞ! 引き留めろや!」
「いやええやん。大家さん待っとけや」
「こちとらアスリートやぞ!」

 私はしばし迷ったが、無視して帰ることにした。はずなのに、何故か宮侑まで私の部屋に入ってきている。

「ほーん、まあまあ綺麗な部屋に住んどんな。でゴムはどこや? あ、俺とお前がやるわけちゃうで」
「今すぐ叩き出したろか?」

 人に上がらせてもらった上に避妊具探しとは、どう育てばこんな十八歳児が出来上がるのだろうか。とても治君と双子だとは思えない。私は仕方なしに飲み物を注ぐと、宮侑に出した。

「大家さん帰ってきたら出てってもらうからな」
「ありがと〜まあ流れで部屋に上がってしもたけど俺とお前が一線超えることは絶対ありえへんから安心してや」
「やっぱり今から叩き出したる」

 宮侑の首根っこを掴むと、「痛! お前俺の着とるブランドの価値知らんやろ!」と喚いた。そういえばこの洋服もSNSにアップしていたような気がする。

「お気に入りなんやな」
「まあな……つーかお前地味に俺のインスタ監視しとるよな」
「先にしてきたんはそっちやろ」

 話の流れでSNSを開くと、今まさに侑が私の部屋とマグカップの写真を投稿したところだった。

「ちょっと何投稿してんねん!」
「匂わせや匂わせ! 女にモテモテの侑君が最近バレーばっかで女の部屋にも行けてないなんてファンが悲しんでまう」
「悲しんどけや!」

 私は怒りのあまり宮侑のアカウントをフォローした。本来フォローとはプラスの感情を持ってするものだと思うのだが、宮侑が私の画像を投稿していないか監視しなくてはならないので仕方ない。私にフォローされた通知が来たのか、宮侑も私のアカウントをフォローした。流れで相互フォロワーになってしまったが、治君に仲がいいと思われたらどうしよう。

「なあ、私の話治君にした?」
「ああ、したで。同じアパートに稲荷崎の女がいたって」

 思ってもみない情報に私は食らいつく。

「ほんま!? なあ、治君何て言ってた!? 私の名前出した!?」
「別に、ふーんってそれだけやで」

 私の勢いに侑は面食らったようだった。「ほんまに治が好きなんやな」そう呟くくらいなら最初から治君に告白させてほしい。私は治君のアカウントを開くと、もう何度も見た投稿を見返した。