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 SNSの相互フォロワーとなったせいで、宮侑と私の連絡が可能になった。これをいいことに、宮侑は至極どうでもいいことでメッセージを送ってくるようになったのである。

「今日うち何もないんやけど、ご近所さんならおすそ分けとかしてくれへんの?」

 そんなメッセージが送られてきた日には、冷蔵庫の奥で干からびていたネギを持って行ってやった。宮侑は「これでモノボケしろってか!」と言いながらなんだかんだでモノボケをしてくれたのでいい奴だと思う。仕方なく私達は二人の手持ちの食料をかき集め、ネギと卵のスープを作った。とてもアスリートの夕飯とは思えないメニューである。夕飯がスープ一品というのはあまりにも質素すぎるので私も宮侑もSNSには上げなかった。上げていたら上げていたで確定の匂わせになってしまうので質素に済ませてよかったのかもしれない。

「それで最近どうや、ヤリサーの方は」
「せやからヤリサーちゃうて」
「じゃあオタサーの姫か」
「オタサーもちゃう!」

 わざわざ部屋を訪ねるようなことはしないものの、顔を合わせれば世間話をするようになった。私は侑のことを侑と呼び、侑は私のことを下の名前で呼んでいる。高校の頃は治君に「苗字さん」と呼ばれていたことを思い出して懐かしく思った。

「でもなー、お前に好きな男ができるとええなー」
「何やいきなり」

 私は飲み屋のライトに照らされた侑の横顔を見る。侑は私をからかう時とは違う、大人びた表情をしていた。

「だっていつまでも治に叶わぬ恋してるのは可哀相やん?」
「勝手に叶わない設定にした上に同情すんなや」

 そうは言いつつも、この恋が限りなく叶わぬ恋に近いものだとは理解していた。私と治君を繋ぐ「同じクラス」という縁はとうになくなり、今では住む県すら違う。私の中でも治君は好きな人というより思い出の人になっていた。

「別に好きな男はおらんけど、それなりに楽しくやれとるよ。人生恋愛だけが全てやない」
「そか」
「女遊びしかしてこんかった男には理解できへんかもしれんけどな」

 私が目を細めて侑を見上げると、侑は「お前が俺の何を知ってんのや!」と言った。

「宮兄弟の噂なんていつでもあったわ。女連れ込んでる姿はまだ見たことないけどな」
「俺はあのアパートに女を連れ込まんと決めた」
「何で?」

 不思議に思って聞くと、侑は居心地が悪そうに目を逸らしながら「なんか知り合いおると気まずいやん」と言った。知り合い、とは私のことだろうか。

「侑ってそういうん気にすることできたんやな……」
「お前は俺を何だと思ってんのや!」

 駅からアパートへの道を歩きながら、確かに侑が女ばかり連れ込むようになったら寂しいかもな、と思った。