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 レポートには苦戦したものの、無事に私の大学生活一年目の前期が終わった。ここぞとばかりに遊びやバイトに繰り出す私を侑は渋い目で見ていた。大方アスリートに休みはないので、羽目を外している私が疎ましくなったのだろう。私は有り余っている時間を活用し肉じゃがを作って侑に届けてやった。侑は「彼女か」と言いながらも受け取り、SNSに「貰った」と投稿していた。彼氏か。蒸し暑い夏の夜、私はまた侑と帰り道が同じになる。

「そっちはえらい忙しいみたいやな」
「忙しいってほどでもないけどお前ほど暇ではないな」
「暇で悪かったな」

 飲み屋の呼び込みの声と人々の騒めきに負けないよう、私達は叫ぶように会話をする。侑が有名選手になってファンも増えたらこんな風に外を歩くこともできなくなるのかもしれないな、と思った。

「私が祭りやら花火やら行ってる間にもバレーしとるんやから、その点は評価したるわ」
「ほんまに、俺今年祭りの予定一個もないわ。こんなん生まれて初めてやで」

 中学に入ったあたりからは必ず女の子と祭りに行っていたのだろう。ふとした所で宮兄弟のモテっぷりを実感しながら、私は口を開く。

「たまには非モテの夏を味わってもええんちゃう?」
「いや、今年の夏祭りには行く」

 先程は予定がないと言っていたのにどういうことだろうと思い侑の方を見ると、侑は町内会のポスターを指さしていた。そこには、来週祭りを開催すると書いてある。場所は私達のアパートの近くだ。

「ここにお前と行く」
「へえ」

 私が質素な反応を返すと、侑は自分がイケメンだと知っているような口調で言った。

「もっと驚くとかときめくとかしろや」
「するか。バレーが恋人の侑君の夏の思い出作りに付き合ってやるんや」
「付き合ってやっとるんは俺の方やろ」

 憎まれ口を叩いている間にアパートに着き、私達はそれぞれの部屋の扉へと手をかけた。

「それじゃ、来週の土曜迎えに行くわ」
「徒歩三秒の距離を迎えに行くと言うなや」

 私達は音を立てて扉を閉める。二〇四号室の人には私と侑の約束が筒抜けになっていることだろう。変な勘ぐりをされてしまうかもしれないが、毎晩私か侑の部屋から嬌声が聞こえてくるということは絶対にないので安心してほしい。実家にいた頃より随分小さくなったクローゼットを見ながら、私は来週何を着ていこうかと考えた。侑のために悩むのはアホらしいとわかっているのに、私はしばらくハンガーを手に吟味した。