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 約束通り侑は一週間後の土曜に迎えに来た。と言っても、私の部屋のインターホンを押しただけである。私が扉を開くと、「何や浴衣やないんか」と言った。開口一番に文句をつけないでほしい。

「浴衣なんかわざわざ実家から持ってくるわけないやん。私服や私服」
「へえ、お前でも浴衣着て祭り行くような男おったんやな」
「私を何だと思ってんねや!」

 正確には浴衣を買ったきっかけは友達と花火を観に行ったことなのだが、悔しいのでそれは言わないでおく。侑は至っていつも通りの服装で、私だけ気合を入れていたら恥ずかしいからやはり私服でよかったと思った。

「へえ、結構賑わっとるやん」

 祭り会場は人であふれ返っていた。正直地域の小さな祭りだと思っていたので、私も予想外だ。侑のように上から目線の言葉を大声で言う気にはなれないが。

「何食べよか」
「流石食い意地張っとんな〜」
「祭りと言えば食べ物やろがい!」

 私は近くにあった焼きそばの列に並ぶ。「一番に炭水化物か〜い」という侑の声を無視して、私は焼きそばを一パック買った。

「そんなに買うてたら食いきれなくなるで」
「侑とシェアするから大丈夫や」

 私がそう言って焼きそばを食べていると、侑は少し面食らったような顔をした。侑も陽キャラなのでそういったことには抵抗がないと思っていたが、意外と潔癖なのだろうか。

「ごめん、食べ回し抵抗あった?」
「いや、お前が大学に染まってもうたことを嘆いてたんや……」
「はあ?」

 侑いわく、異性との飲み回し・食べ回しを気にしないのは大学生の特徴らしい。侑こそ高校時代からそういうことをしていたのではないだろうか。下に見ていた私が陽キャラっぽくなっているのが気にくわないとか、そういうことだろうか。

「心配せずとも私は陽でも陰でもない普通の者やで」
「いや陰の者やろ確実に」
「何やねん!」

 私達はりんご飴、綿菓子、ポテトを食べ、型抜きをして遊んだ。侑が初っ端から失敗していたので面白かった。私は途中までいい線を行っていたのだが、自分の分が終わって絶え間なく話しかけてくる侑に気を取られてヒビを入れてしまった。

「最後は絶対侑がおらんかったら失敗せんかった!」
「まあまあ、楽しめたからええやん」
「……せやな」

 辺りを見渡せば、人は以前よりも減り、祭りの終わりが近付いていることを示していた。橙色に滲む屋台の灯りが幻想的で、まるで夢の中の景色みたいだと思った。私は侑の横を歩きながら、ふと口を開く。

「私な、好きな人できてん」
「……ふーん、どない奴」
「サークルの先輩」

 私達の間には沈黙が訪れたが、祭りの喧騒がそれを埋めてくれたので寂しくはなかった。侑はたっぷり間を溜めた後、「今度は上手くいくとええな」と言ってくれた。侑が素直に私の恋を応援してくれるというのが、なんだか可笑しかった。

「ありがとなぁ」

 私と侑は心地いい沈黙を共有しながら、私達のアパートへと帰った。