▼ 8 ▼


 それから紆余屈折あり、私と例の先輩は付き合うことになった。迷ったが侑には報告しなかった。したところで何か嫌味を言われるのがオチだ。

 私が初めて先輩をアパートに連れてきた時、ちょうど侑と出くわしてしまった。私は侑に何か言われるのではないかと内心動揺したが、侑は私の横を何も言わず通り過ぎて行った。ただのご近所さんを演じてくれるようだ。そもそも、私達は名実ともにただのご近所さんでしかないではないか。

 私が先輩をアパートに連れてくるようになった頃から、侑も女の人を連れ込むようになった。むしろ今まで連れ込んでいる様子がなかったのが不思議なくらいで、美女を自宅に連れ込んでこそモテ男の宮侑なのだ。私達のSNSからは自炊の投稿はなくなり、代わりに恋人とのツーショット写真が増えた。侑の彼女は物凄い美人で私はよくいいねを押したが、侑から私の投稿にいいねがつくことはなかった。大方非モテの私が一人前に彼氏を作ってよろしくやっているのが気に食わないのだろう。そんなことをしている間に私の大阪での一年半が過ぎた。

 サークルでもてはやされるのは一女の間だけであり、二女となると相手にしてもらえることも少ない。先輩とは些細なことが積み重なり別れてしまった。大阪で迎える二回目の秋、私は恋愛より食事に精を出していた。

 大学生の一人暮らしとはいえ、今まではいくら何でも外食や出来合いの食材に頼りすぎた。私が再び自炊写真をSNSに投稿していると、懐かしい人からメッセージが来た。侑だ。

「作りすぎたんなら貰ってもええ?」

 私が既読をつけた数秒後には、既に家のインターホンが鳴っている。私は仕方なくドアを開けながら「いきなり家に押しかけるて、私が彼氏持ちやったらどないするつもりや!」と文句を言った。

「どうせお前彼氏おらんやろ。わかりやすすぎるわホンマ」
「なっ……」

 何か言い返そうと思ったが言葉が出てこない。侑とこうして言い合いをするのも久しぶりだと思った。

「ちなみに俺も今は女おらんから、心配せんでええで」
「心配なんかしてないっちゅーの!」

 私は侑を追い出して扉を閉めた。実際、作りすぎで困っていたので貰ってくれたのはよかったのだが、なんだかどっと疲れた気分だ。私はソファに座りSNSを開いた。すると侑が「#おすそ分け」と私の作った煮物を投稿しているのがわかった。改めて見ると、侑のアカウントは凄いフォロワー数だ。髪型も以前より変わっていた。だが、侑と話していると不思議と落ち着く心地は、一年前から変わらないと思った。