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名前さんと次に出会ったのは購買の前でのことだった。名前さんも俺に気付いた様子だったが、それぞれ相手より今日のパンを買えるかどうかの方が大事だったため俺達はすぐに視線を逸らした。戦利品のパンを抱えて、教室ではなく中庭のベンチに出たのはただの気まぐれだ。

「ずっと思ってたんやけど、宮君何で私の名前知っとるん」

名前さんは小動物のようにメロンパンを食べながら言う。俺は焼きそばパンを大口で頬張った後、「ツムに聞いた」と言った。いや、実際にツムに教えてもらったわけではないのだけど。ツムの口から知ったというのは事実だ。

「そうやったんか」

名前さんが言って、俺達はそれぞれパンを食べることに集中する。特に気まずくはない沈黙の中で、名前さんの名前をツムから知ったということが癪に感じた。まあ、ツムから聞いていなければこうして付き合ってなどいないのだろうけれど。

「それよりその宮君てやめへんか」
「え?」
「俺もツムも宮やん。ややこしいやろ」

俺がそう言うと、名前さんはぼうっと俺を見た後我に返ったように「せやね」と言った。

「侑が下の名前呼びなのに彼氏の宮君が苗字呼びなのはおかしい、とかやないんやね」
「ちゃうな」
「即答かい」

俺と名前さんはまた二人揃ってパンを食べ進める。今この場面をツムが見たらどう思うだろうか。うるさい声で騒ぐか、別に都合のいい存在である名前さんが俺といようが気に留めないか。どっちにしろ腹が立つという結論を出しながら、俺は新しいパンの袋を開けた。


波乱は遂にやってきた。いつものように俺が教室で弁当を食べていた昼休み、唐突に侑が来て叫んだのだ。

「サム、名前と付き合ってるて本当なんか!?」

馬鹿でかい声で叫ぶ馬鹿のせいで、教室は騒めき出している。その反応を見ながら、名前さんは誰にも言っていなかったんだな、と思った。

「本当や」

俺が答えると教室の騒めきはさらに増す。俺の席まで来たツムは、何か叫び出したいのを堪えるような、怒りを爆発させるのを寸での所で我慢しているような表情をした後、俺の机に手をついて叫んだ。

「何でや!」
「別に何ででもないで。ただの気まぐれや。名前さんもそうなんちゃう」
「そんなんで付き合っていいと思っとるんか!」
「気まぐれで名前さん振り回してた奴に言われたないわ」

そう言うと、ツムは反論の言葉を失ったようだった。ツムが名前さんを都合のいい存在にしていたのは気まぐれにすぎない。告白をさせず宙ぶらりんの存在にしていたのも、気まぐれに過ぎない。

「名前は俺が好きや」
「でも付き合っとるのは俺や」

しばらく無言の睨み合いが続いた。この状況に、教室がまた違った意味で騒めき出すのが分かる。だが流石の俺も教室内で喧嘩などしないので安心してほしい。それと俺とツムの喧嘩を期待する女子は頭のどこかがおかしいと思う。

「サムと話してもしゃあないわ。名前に直接聞いたる」

俺から離れようとするツムを呼び止め、俺はスマートフォンを出した。

「ちょうどええわ。ツム、名前さんのライン教えてくれん?」

ツムは「そんくらい自分で聞け!」と吠えて、早足に俺の教室を去って行った。嵐のような奴だと思う。ツムが大声で叫んだせいで巻き込まれる形になった名前さんが可哀想だ。